ディープ・ニッポン 第10回

小笠原(2)自然遺産、コペペビーチ、ナイトツアー、センセキツアー、小笠原エコリザーブ、ランスのバー

アレックス・カー

オオコウモリの目が光る

 本土から遠く離れた小笠原諸島は、「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど固有の動植物が多くあり、2011年には世界自然遺産に登録されています。父島は自然環境のローカルガイドが充実していて、今回はナイトツアー、戦跡ツアー、自然ツアーに参加することにしました。

 最初に参加したのは、到着初日の夜に催されたナイトツアーです。スタートまで時間があったので、夕暮れ前に、宿から車で少し行ったところにある「コペペビーチ」という海岸へ行ってみました。この少し変わった名は、昔、ギルバート諸島出身のコペペさんが住んでいたことに由来しているそうです。

 険しい崖地に囲い込まれるように小さな湾ができ、白い砂浜が海と陸地とをつなげているビーチには、誰もいませんでした。ちょうど日没が始まり、崖と崖の間に沈んでいく夕日が、湾内の水面を黄金色に照らしていきます。南洋諸島を描いた絵のような風景に目を奪われ、しばらく砂浜に座りながら、無心に眺め続けました。

コペペビーチの日没

 宿のロックウェルズで夕食をとった後、夜八時にガイドの島田克己さん(島ちゃん)が迎えに来て、ナイトツアーが始まりました。

 最初に案内されたのが、二見湾にある「とびうお桟橋」です。埠頭に船が繋がれた光景は一見、夜の閑散とした港の景色にすぎませんでしたが、島ちゃんが岸壁沿いの海面を懐中電灯で照らすと、浅い水の中にサメやエイの魚影が浮かび上がりました。泳いでいるサメやエイを、水族館以外の至近距離で見るのははじめてのこと。小笠原の豊かな海の自然は、船着き場まで届いています。

とびうお桟橋の夜の海面

 次に一行は山の方へ向かい、絶滅危惧種のオガサワラオオコウモリを探しました。道沿いには、アダンの木を高くしたような「タコノキ」が立ち並んでいます。名前の由来は、根元に突き出した支柱根が蛸の足に似ていることにあり、小笠原の村木にも指定されています。タコノキにはパイナップルのような果実がなり、夜になるとオオコウモリがそれを食べにやって来ます。島ちゃんがタコノキの上部の枝を懐中電灯で照らすと、ザクザクと音を立てて実を食べていたオオコウモリの目が光って見えました。小さなコウモリが群れになって飛ぶところを見たことはありましたが、体の大きなコウモリをこんなに近くから見ることはこれまでありませんでした。

オガサワラオオコウモリ

 オガサワラオオコウモリは、小笠原諸島に生息する日本固有種ですが、現在は絶滅の危機に瀕しています。

 世界自然遺産に登録されている小笠原ですが、貴重な自然環境を維持することは容易ではありません。一例として、昔の捕鯨船で運ばれてきたと思しきネズミが外来種として繁殖し、タコノキの実を食べてしまうことがあります。これはオオコウモリの餌不足に直結します。また、果肉のみを食べて、種子を地面に落とすオオコウモリとは違い、ネズミは種子ごと食べてしまうので、タコノキ自体の更新も妨げられてしまいます。実はネズミは世界中の離島が抱えている問題でもあり、小笠原では陸産貝類や鳥類の卵まで食べられてしまっています。

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ディープ・ニッポン

オーバーツーリズムの喧騒から離れて──。定番観光地の「奥」には、ディープな自然と文化がひっそりと残されている。『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』のアレックス・カーによる、決定版日本紀行!

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プロフィール

アレックス・カー
東洋文化研究者。1952年、米国生まれ。77年から京都府亀岡市に居を構え、書や古典演劇、古美術など日本文化の研究に励む。景観と古民家再生のコンサルティングも行い、徳島県祖谷、長崎県小値賀島などで滞在型観光事業や宿泊施設のプロデュースを手がける。著書に『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』(ともに集英社新書)、『美しき日本の残像』(朝日文庫、94年新潮学芸賞)、『観光亡国論』(清野由美と共著、中公新書ラクレ)など。
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