百田尚樹をぜんぶ読む 第4回

ポストモダン保守としての百田尚樹

藤田直哉×杉田俊介
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ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家と文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

 

藤田 ぼくが力点を置きたいのは、百田さんがポストモダニストである、という点なんです。

ポストモダンとは何か。それは生身の身体を伴った事実とか現実よりも、情報やイメージや言葉によって現実は作られている、という認識の方が優勢になった時代や、あるいはそうした考え方のことです。

 テレビマンとして、作家として、炎上屋として、プロパガンダ屋として、そういう時代の中で複雑な活動をしている奇妙なメディアイベンターとして、百田尚樹はとんでもない才能を持っている人だと思う。そして、彼の作品って、そういう自分のあり方への反省なり韜晦なり自己言及と読める箇所が、いくらかあるんですよ。葛藤や矛盾が吐露されているように読める箇所がある、というのかな。

 たとえばノンフィクションの『リング』では、過去のボクシングの名試合を紹介していくわけですが、それは過去の試合をビデオで観て、それをノンフィクションの中で描写して紹介しているわけですよ(笑)。描写がテレビ越しだから、平板になっているけれど、それでいい。『幻庵』などでも、当時の碁の棋譜を読んで書いている自分について作中に書き込まれていますよね。

photobeps / PIXTA(ピクスタ)

『日本国記』だってウィキペディアのコピぺがあると指摘されているわけだから、基本的にこの人は、過去や歴史というものは、メディアを経由してツギハギにして再構成していいんだ、という歴史観の持ち主なんですよね。

 それはヒストリーはストーリーである、という構築主義的なポストモダニストの歴史観です。つまり、じつはこの人はポストモダンな保守主義者であり、保守的なポストモダニストなんですよ。

 たとえば『永遠の0』も、戦後の社会では特攻隊は愚かな狂信者だったとか批判されてきたけど本当はそうじゃなかった、とか、日本が戦中に行ったことは実はいいことだった、とか、いかにも保守的で歴史修正的な欲望に基づいた小説です。

 あるいは『海賊とよばれた男』も、本当は過酷でもあっただろう、敗戦後の復興や労働を何でもかんでも美しい話にしてしまっている面があります。みんなが家族的経営で協力して、タンクの中で油をすくうという苛酷な労働を喜んで和気藹々とやってしまう。

 歴史認識の面でいえば、田原総一朗との対談本(『愛国論』二〇一四、ベストセラーズ)を読むと、彼は南京大虐殺はなかった、「従軍慰安婦」も嘘だったなどの、歴史修正主義者がよく口にするテンプレ的なことを主張していて、田原さんからたしなめられています。

杉田 うん。彼が保守的ポストモダニストだというのは僕もそう感じるんだけど、ただ、そこに必ずしも回収されないような実存性が、別の面では彼の小説のコアになってはいませんか。そこが彼の小説を侮れないものにしているのでは。

 たとえばおそらく百田尚樹は、基本的には、「戦後」の「普通のおじさん」の感性を持っている人だと思う。少なくとも、彼の初期の小説を読む限りは、ある時点まではレイシストや差別主義者とは言えなかった、と僕は思います。

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ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家、文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

関連書籍

非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か

プロフィール

藤田直哉×杉田俊介

 

藤田直哉
1983年生まれ。批評家。日本映画大学専任講師。東京工業大学社会理工学研究科価値システム専攻修了。博士(学術)。著書に『娯楽としての炎上』(南雲堂)、『虚構内存在:筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』、『シン・ゴジラ論』(いずれも作品社)、『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)などがある。朝日新聞で「ネット方面見聞録」連載中。文化と、科学と、インターネットと、政治とをクロスさせた論評が持ち味。

 

杉田俊介
1975年生まれ。批評家。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。20代後半より10年ほど障害者支援に従事。著書に『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』(集英社新書)、『無能力批評』(大月書店)、『長渕剛論』『宇多田ヒカル論』(いずれも毎日新聞出版)、『ジョジョ論』『戦争と虚構』(いずれも作品社)、『安彦良和の戦争と平和』(中公新書ラクレ)など。

 
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