手つかずの集落やお寺で味わう素朴な風景
南会津に出かけるたびに、私は大内宿を起点に車で「探求旅行」へと出かけ、南は尾瀬ヶ原の檜(ひの)枝(え)岐(また)村、西は昭和村まで、この土地を広範囲にわたって見て回りました。茅葺きの町として大内宿は日本一だと思いますが、私が以前から興味を持っているのは、さらに手つかずの集落や田舎のお寺です。
車を走らせていて気づいたことは、この一帯には赤いトタン屋根の古民家が多いことでした。それらのほとんどは、茅葺き屋根に特有の形をしています。つまり元は茅葺き屋根の古民家だったということです。南会津には大内宿が単独で存在しているのではなく、立派な茅葺き文化が全域に広がっているのです。大内宿と他の地域が違うのは、国による重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)の指定を受けているか、いないかだけですが、指定を受けていなければ、物見遊山の観光客はほとんどやって来ず、それゆえ本来の素朴な風景を味わうことができることになります。
中でも特に印象に残る場所が、二つありました。一つは会津田島駅から少し西へ走ったところにある「南泉寺」という小さなお寺です。このお寺は周辺の道路を走っていた時に偶然、見つけました。雪で真っ白に染まった田園風景の中、ポツンと小さな寺の楼門が立っていたのです。周囲には、日本の田舎の風景を汚染するブルーシートや鉄塔などは見当たらず、純潔で簡素な雰囲気のままで、まさに昔の日本を描いた農村画の世界です。五月に再訪した時は、門前にある大きな枝垂桜が花を咲かせており、また別の田園ロマンを漂わせていました。
それまで、日本で愛してやまない茅葺きの門を聞かれたら、私は京都の法然院と鹿児島県入来(いりき)町の茅葺き門と答えていました。その二つに南泉寺の門を加えれば、私にとっての「三大茅葺き門」ができあがります。田園風景の中に立つ小さな門は、素朴で可愛らしい佇まいですが、どこか淋しげに映ります。今の日本では最も脆く、あっという間に消えゆく景色です。
著名な観光地から一歩脇に入った、知る人ぞ知る隠れた場所には、秘められた魅力が残されている。東洋文化研究者アレックス・カーが、知られざるスポットを案内する「巡礼」の旅が始まる。