シングルマザー、その後 第6回

日本のシングルマザーはなぜ、ワーキングプア状態に陥るのか

畠山勝太氏(比較教育行財政/国際教育開発)インタビュー
黒川祥子

──胸が苦しくなるような、日本の子どもの現状がよくわかりました。以前、取材をした課題集中校(生徒の低学力や問題行動に由来する課題を多く抱える学校)の高校生たちが、スマホと教科書しか持っていなかったのを思い出しました。

畠山 親世代、とりわけシングルマザーの貧困をなんとかしなければ、貧困が次世代に受け継がれてしまう構図が、はっきりと作られているわけですね。

 そうです。だからこそ、ここで止めないといけないわけです。では、先ほどの質問へのお答えに入りますね。日本のシングルマザーはこれほど働いているのに、なぜ、貧困に苦しんでいるのか。このことについて、OECDのデータから分かることを話して行こうと思います。

 OECDの国全体で共通しているのが、教育水準の高いシングルマザーの就労率は90%に近く、この層は仕事をして普通に暮らして行けるということです。これは日本でも例外ではありません。

 ただし、日本だけで顕著に現れている特徴があります。それは、高卒や高卒未満のシングルマザーの就労率が高いということです。OECDのどの国でも、高卒や高卒未満のシングルマザーの就労率が60%を超えている国はなく、彼女たちに向けた社会保障が少なくともある程度は機能していることが窺えます。ところが、日本では83%。高卒・高卒未満のシングルマザーの就労率が他の国と比べて、30%以上高いわけです。

 

教育水準、非正規雇用、貧困

──他国と比べ、日本的と言える特徴があることがわかりました。でも、これがなぜ相対的貧困率の高さにつながるのですか?

畠山 OECD諸国において就労しているシングルマザーは、正規雇用がメインです。日本だけ、ここが違うわけです。総数で見ると、正規で働いているシングルマザーは5割にも満たない。パート、アルバイトなど、非正規雇用の比率が高い。これは日本だけです。

 ですので、これほど働いているのに貧しいというのは、要は、その賃金が低いからなのです。

──確かに、シングルマザーは非正規労働による低賃金に苦しめられていますが、これが日本に限ったことだったとは初めて知りました。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。

畠山 ひとつは、教育水準の違いで説明できます。日本の女性の教育水準は、実は、先進国で最低レベルなのです。男性と比べた時の女性の教育水準を<相対的な教育水準>というのですが、OECD35ヵ国の中で、女性の方が男性より大学進学率が低い国というのは韓国とトルコ、日本ぐらいで、日韓が並んでいて、トルコは日韓よりも上です。他の国は、女性の方が男性より大学進学率が高いのです。大学院まで視野を広げると、韓国は日本よりもだいぶこの値が良いので、日本は先進国の中で、最も女性の相対的な教育水準が低い国だと言えるでしょう。

──非常に驚きです。戦後70年以上経ち、教育の男女平等は当たり前だと思っていました。全く、見えていなかった事実でした。

畠山 たとえばアメリカのハーバード、イギリスのオックスフォード、ケンブリッジなどトップスクールは男女比が半々です。しかし、東大で女子学生がどれだけいるか。旧帝大でも、女子学生比率は3分の1を超えているところは確か、ないと思います。大阪外国語大学を吸収した大阪大学が、たまに3分の1を超える時があるかな? というぐらい。先進国で、そういう国は日本だけです。

 とりわけ、理系における女子の大学院進学率は最低レベルです。日本は、男女間の教育間格差がものすごく大きい国なのです。

Mills / PIXTA(ピクスタ)

──確かに、医学部で合格している女子学生を不合格にする操作が行われていました。そういう国だということはわかります。しかし、戦後70年経ってなお、女子学生の大学進学率がなぜ、伸びていないのでしょうか?

畠山 未だに、「女の子に教育は要らない」という風潮が根強くあります。これが一番の要因かと思います。根本原因と言ってもいいですね。実際、地方ではその考えは未だ主流と言っていいかもしれませんし、東京でもいわゆる下町には「女の子は勉強しなくていい」という習慣が、まだあるように思います。親が娘を大学に行かせない。「おまえ、大学なんか行っても、しゃあないだろう」と言われれば、大学に行くわけがないですよね。

 高校の進路指導も、女子生徒には難関大への挑戦をさせずに、無難な進路を進めてくる。実際、学力試験の結果だけを見ると、男女間にそれほど差はありません。なのに、大学進学となったとき、非常に大きな差となって現れてくる。

──それは貧困に喘ぐ層で、より顕著なのではないでしょうか? 実際、シングルマザーのママ友で息子は大学に、娘は短大や専門学校でよいというケースを見てきました。

畠山 確かに、それはあると思いますね。男の子なら貧しくても無理しても大学に入れるけれど、女の子なら専門学校でいいとする親も多いでしょう。

 この男女間の教育水準格差が、社会人になれば、男性のほとんどは大卒の正規雇用、女性はほとんどが大卒未満の非正規雇用となり、そのまま、男女間の賃金格差となって現れているわけです。

 日本のシングルマザーのほとんどが、教育水準の低さが原因となって低賃金の非正規雇用で働かざるを得ず、これが貧困の原因となっています。

──確かに、日本のシングルマザーでフルタイムの正規雇用といえば公務員とか看護師とか、限られた職業になってしまいます。

畠山 一握りの正規雇用に就くためには、学歴が求められるわけです。はっきり言えることは、日本では、高卒や高卒未満のシングルマザーに対して、非常に厳しい労働環境、および労働慣行があるということです。

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 第5回
シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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