シングルマザー、その後 第6回

日本のシングルマザーはなぜ、ワーキングプア状態に陥るのか

畠山勝太氏(比較教育行財政/国際教育開発)インタビュー

黒川祥子

「母子家庭」という言葉に、あなたはどんなイメージを持つだろうか。「女手ひとつで大変そう」「お母さんが働いているあいだ、子どもはどうするの?」「家族観も多様化しているのだから、立派な生き方だと思う」……。

古典的なものも、あるいは比較的おおらかな考え方も、イメージは様々だろう。しかしながら、シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は必ずしも多くないのではないか。

本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介してきた。今回は、日本のシングルマザーがワーキングプアに陥るカラクリを識者に尋ねる特別編。

プラナ / PIXTA(ピクスタ)

 

 まず、この2つのグラフを見て欲しい。OECD(経済協力開発機構:先進35カ国が参加)の「Family Database」に存在する国における、「ひとり親世帯の就労率」「ひとり親世帯の相対的貧困率」だ。→(「ひとり親世帯の貧困緩和策」畠山勝太、SYNODOSから)

 2つのグラフを見て、目を疑う人もいるのではないか。日本はひとり親世帯の就業率が最も高い国であるにもかかわらず、ひとり親世帯の相対的貧困率は最悪であるという事実。しかも他国と比べ、貧困率は群を抜いて高い。

 これは何かのカリカチュアなのか。なぜ、このような戯画的事態が起きているのか。根本的に何かが間違っているとしか思えない。当事者としては屈辱的ですらある。

 この国はひとり親(その多くを占めるシングルマザー)に、「働け、自立しろ」と迫るのみだが、既に日本のシングルマザーは先進諸国の中で最も働いているのだ。なのに、世界で突出して貧困に喘いでいる。何という、あからさまなワーキングプア状態なのか。

 畠山さんに最も聞きたかったのは、国際比較の中から見えてくる、このカラクリについてだった。

 

「子どもの貧困」を巡る日本の実情

──なぜ、日本のシングルマザーはこれほど高い就業率を持ちながら、最悪の貧困状態に置かれているわけですか?

畠山 本題に入る前にまず、国際教育開発という私の専門分野から、子どもの貧困について国際比較を通して具体的に見て行きたいと思います。子どもの貧困は、保護者(シングルマザー)の貧困に起因するわけですから。

 そこで、子どもがいる家庭の貧困状況について、OECD諸国のデータを比較することで、日本の状況を捉えてみようと思います。

 まず、「子どもの相対的貧困率」のデータからわかるのは、日本では子どもの約6人に1人が相対的貧困状態にある家庭で暮らしているという事実と、この貧困率は先進諸国の中でもかなり高いということです。→(「日本における子供の貧困を人的資本投資、共同親権の側面から考察する」畠山勝太、SYNODOSから)

 次に、具体的に子どもの生活場面を見ていきましょう。「子どもとして生活するための必需品を2つ以上欠いている子どもの割合」ですが、これを見ると実際に子どもが物質的にどれだけの剥奪状態にあるかがわかります。グラフからわかるのは、日本は平均より悪い状況にあるということです。→(同記事より)

──「子どもとして生活するための必需品」とは、具体的に何を指すのですか?

畠山 ①洗濯機、②カラーテレビ、③電話、④車、もしくは車を買えるだけの財政的な基盤、⑤暖房設備、⑥水道光熱費の支払いが滞っていない、⑦家賃もしくは住宅ローンの支払いが滞っていない、⑧2日に1回は肉か魚を食べている、⑨その他必要な支払いに滞りがない、となっています。

 日本が先進諸国の平均以下だということは、子どもの生活状況がまさに貧困状態にあることを示しています。

 次に、「基礎的な7つの教育資源全てを持っている子どもの割合」のグラフを見てみましょう。日本はOECD諸国の中で、最下位になっています。→(同記事より)

──「基礎的な7つの教育資源」とは?

畠山 ①勉強机、②勉強に集中できる静かな環境、③宿題をするためのパソコン、④勉強のためのソフトウエア、⑤ネット接続、⑥辞書、⑦教科書となっています。

TOSHI.K / PIXTA(ピクスタ)

──OECD諸国の平均は44.6%ですが、日本はわずか12.2%と最下位です。

畠山 先進国と言いながら、実は十分な教育投資を受けていない子どもたちがいかに多いのか、一目瞭然だと思います。日本の子どもたちの貧困状況は、これほどまでに深刻なものになっていることがわかります。ここから、次世代への貧困の連鎖へつながるわけです。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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