畠山 さらに問題なのが、職場内での女性差別です。労働慣行や女子教育の問題は、会社に入る以前の問題ですが、日本は会社の中にも、シングルマザーを貧困へと追いやる問題が存在しています。
まず、入社してからスキルアップのために研修を受けたりすると思うのですが、勤務時間内に研修を受けられている女性の割合は、日本はOECD諸国の中でもほぼ最下位です。さらに、相対的な教育水準の低さ・研修への参加率の低さから、日本は男女間のスキル格差が先進国でも最も大きい国の一つですが、スキル水準が同じ男女を比較した時に存在している会社内でのスキル活用格差もOECD諸国でワースト5に入っています。
勉強を頑張って良い会社に入ったとしても、そんな酷い扱いを受けることが薄々とでも分かっているなら、勉強するのが馬鹿馬鹿しくなるのも当然です。
いずれにせよ、会社に入ってからのスキルアップの機会も限られていれば、スキルを発揮できる機会も限られているわけで、シングルマザーが女性であるがゆえに低賃金に押しとどめられやすいという構造が会社の中に存在しているのです。
また、シングルマザーがマザーであるがゆえに貧困に陥りやすくなっている点も、ケアする必要があります。これは何も日本に限ったことではないのですが、北欧諸国ですら、女性が母親になることで、賃金にペナルティが発生し、そのペナルティの大きさは第一子よりも第二子、第二子よりも第三子で大きくなっていくことが分かっています。そして、このペナルティは男性には存在していないことも分かっています。
これは、子供が生まれると、女性ばかりがキャリアの中断を迫られますが、男性はそうではない事によるもので、実際にキャリア構築上重要な20代後半から30代前半に第一子を産んだ場合、それ以外の年齢帯で第一子を生んだ場合と比べてこのペナルティが大きくなります。
女性が母親になることで貧困に陥りやすくなる、これがシングルマザーが貧困に陥りやすい理由の一つでもありますし「そりゃ少子化も進むよな」という所以でもあります。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。