──日本特有の労働慣行とは、何を指しているのですか?
畠山 正規雇用に就くことの難しさですね。日本の場合、長時間労働ができないと正規職員になれない、逆に言えば正規職員になるには長時間労働ができることが前提になっているという労働慣行が、厳然とあります。
家のこと全ての面倒をみてくれる専業主夫・主婦がいるか、自分の親の支援を受けられる人でなければ、なかなか、長時間労働には耐えられないわけです。
法人税と雇用慣行の関係
──高度経済成長期に確立した、専業主婦がいて、一家の大黒柱である男性が稼ぐという労働モデルが、これほど時代状況や環境が変わった今でも、労働慣行として続いているということですか?
畠山 そうです。ですから、この長時間労働をしないと正規職に就けないというところをまず一番に、改めないといけないと思います。
変えるためには、国が企業に対してきちんと税金をかけて、それを元に助成金を出して、それで労働慣行を変えるというやり方しかないのですが、日本では企業にそれほど高率の税をかけていませんので、減税などの優遇措置によるインセンティブを設けることもできなければ、そもそもその財源も確保できない。国による雇用慣行に対する働きかけが強くはできないのです。そもそも、政府にその考えがあるのかも怪しいですし、日本には女性の国会議員が少ないので、労働慣行を変え、男女の賃金格差を無くすインセンティブが働きません。
──そのしわ寄せが、シングルマザーにのしかかっているわけですよね。2008年の年越しテント村で男性の非正規雇用が「発見」されましたが、そもそも、女性はほとんどが非正規雇用で、一貫して増加傾向にあるわけです。
畠山 確かにシングルマザーはそのしわ寄せを、一番受けやすい存在でしょうね。しわ寄せは弱い層にくるものですから。
私はシングルマザーであっても、家庭と仕事を維持しながら、正当な給料をもらえて、ちゃんと子育てをしていける国がまともな国であると思います。データで見るとノルウェー、デンマーク、ベルギー、スウェーデン、アイルランドなどがそのような国ですね。
ほぼ北欧ですね。北欧は高福祉・高税率の国ですが、税率が高いというのはそれだけ、労働環境に対して政府の介入を効かせることができるということでもあります。税率が低いということは、裏を返せば、企業側はやりたい放題、何でもできる状況。インセンティブもなければ、ペナルティもない。
──企業への税率が高い方がいいわけですね?
畠山 ある程度高い方がいい理由は、そのことによって、国が企業に望ましい働き方だとか、望ましい産業への転換を促すことができるからです。
日本の企業は今、やりたい放題です。長時間労働をしている企業には税率を上げるなどの懲罰もできるはずですが、政府はそのようなことをしていませんから。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。