敦子さんが毎月の返済に事欠くようになったのは、案の定、児童扶養手当の支給が止まった頃からだ。いくら頼んでも養育費はもちろん、元夫から学費の援助もない。
贅沢はしても養育費は支払わない
「元夫は、養育費は支払わないのですが、当時は年に1〜2回、子ども達と会って、食事をしていました。寿司とか高級中華とか、豪勢なものを子どもに食べさせていたようです」
長女の就職祝いだと言って、デパートでイタリア製のスーツ、バッグ、靴、時計を購入した。長女は一般企業に就職した。
「多分、30万円はかかっていると思います。このお金を、なんで、長男の高校の学費に使ってくれないのか。そんな贅沢なもの、長女には要らないのに」
児童扶養手当の毎月4万円が消えたことは、ストレートに家計を直撃した。水道代もこんなに大きい額なのだと知った。ゴミ袋代だってバカにならない。大きかったのは、医療費だ。長男がバスケの試合で転倒し、膝の十字靭帯断裂損傷という大ケガを負ったが、手術をさせてあげることができなかった。
「長男は2ヶ月間、松葉杖生活になりました。激痛が続いていましたが、愚痴も音を上げることもなく、休まずに大学に通いました。3ヶ月で、普通に歩けるまでに回復しましたが……。高校でもバスケで舟状骨を折ったのですが、この時はすぐに入院して、手術をすることができました。3日の入院で済んだのです」
加えて、不況がゴルフ場を直撃した。同じコースを回っても、2バックばかり。収入は減る一方となった。身体が悲鳴を上げ、休む日も増えて行った。20年前のように、休み返上で働けない。
そこで敦子さんは、養育費の未払いについて弁護士に相談した。子どもが成人していると、母親に請求権はないという。この時点で、離婚時の弁護士が養育費の取り決めを、公正証書にしていないことも判明した。
「公正証書にしていたら強制力があったということですが、しょうがないので、内容証明を送ってもらいました。養育費の未払い額は、450万円になっていました。それを分割で払ってくれという。でも、スルーされて終わりでした」
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。