水野さん、自己破産しましょう
ローンの返済額は、月15万円にも及んだ。
加えて生活費をキャッシングで補填したり、クレジットカードで買い物をした返済もある。
やがて、現金でのローン返済が困難となっていく。
「なんかもう、破れかぶれでした。こんなの、絶対に破綻すると思いながら、キャッシングでの返済を始めたのです」
別のカードのキャッシングで現金を作り、返済日に間に合わせるという綱渡りの日々。
「何とか、支払えた。よかったとホッとしても、また次の支払いが来る。何か、もう、追われるようで苦しくて。今、どれだけ借りているのか、現実を見ないようにしました」
カードのキャッシング限度額が来れば、違うカードに乗り変える。最後は、サラ金があるから大丈夫だと思っていた。
「サラ金の明るいCMを見ながら、あそこがあると甘く見ていました。やがて、どのカードも貸してくれなくなりました。サラ金のATMが私を拒否した時、目の前が真っ暗になりました。明らかに、多重債務者でした」
ある日、長女が友人の弁護士を、自宅に連れて来た。すべての借用書を見た弁護士は言った。
「水野さん、自己破産しましょう。もう、それしかないです」
若い弁護士は、長女と長男にこう言った。
「キミたちのために、お母さんは破産するんです。すべては、教育ローンが原因ですから」
その時、敦子さんの目から涙がとめどなく溢れた。人生の落伍者となったという情けなさと、ローン地獄から解放される安堵と、両方入り混じった涙だった。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。