シングルマザー、その後 第1回

子育てを終えた後に待っていた悲劇

黒川祥子

水野さん、自己破産しましょう

 ローンの返済額は、月15万円にも及んだ。

 加えて生活費をキャッシングで補填したり、クレジットカードで買い物をした返済もある。

 やがて、現金でのローン返済が困難となっていく。

「なんかもう、破れかぶれでした。こんなの、絶対に破綻すると思いながら、キャッシングでの返済を始めたのです」

 別のカードのキャッシングで現金を作り、返済日に間に合わせるという綱渡りの日々。

「何とか、支払えた。よかったとホッとしても、また次の支払いが来る。何か、もう、追われるようで苦しくて。今、どれだけ借りているのか、現実を見ないようにしました」

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

 

 カードのキャッシング限度額が来れば、違うカードに乗り変える。最後は、サラ金があるから大丈夫だと思っていた。

「サラ金の明るいCMを見ながら、あそこがあると甘く見ていました。やがて、どのカードも貸してくれなくなりました。サラ金のATMが私を拒否した時、目の前が真っ暗になりました。明らかに、多重債務者でした」

 ある日、長女が友人の弁護士を、自宅に連れて来た。すべての借用書を見た弁護士は言った。

「水野さん、自己破産しましょう。もう、それしかないです」

 若い弁護士は、長女と長男にこう言った。

「キミたちのために、お母さんは破産するんです。すべては、教育ローンが原因ですから」

 その時、敦子さんの目から涙がとめどなく溢れた。人生の落伍者となったという情けなさと、ローン地獄から解放される安堵と、両方入り混じった涙だった。

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第2回  
シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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子育てを終えた後に待っていた悲劇