「それから」の大阪 第22回

十三のエンタメ史と「第七藝術劇場」

スズキナオ

配信の時代に足を運んでもらうにはイベントしかない

――すごく幅広くレジャー業界に携わってこられたんですね。松田さんはずっと映画に関わっている方なのかと思っていました。

「結局、会社を定年退職した時に、街おこしの劇場として第七藝術劇場ができて、その社長になって映画の仕事に戻ったわけです。自分はミニシアターは10年前に潰れるゆう持論を持ってたんですわ。今から10年前、つまり2010年頃ですね。『シアターセブン』は2011年にオープンしたんですが、なんでそのタイミングだったかというと、映画がコンテンツになった時点で、ミニシアターは絶対廃れていくと試算したんです。そこでそれを補うべく、イベント主体のものをやらなあかんゆうんでシアターセブンを構想した。シアターセブンではどんどんイベントをやっていこうと。コンテンツ化して、映画を配信で見るのが当たり前になった時代に、映画館に足を運んでもらおうと思ったらイベントしかないと」

第七藝術劇場の受付付近(2022年6月撮影)
席数は通常時で96席(写真提供:第七藝術劇場)
映画館の同フロアには今もボウリング場が入っている(2022年6月撮影)

――たしかに、映画館に行かなくても家で映画を簡単に見られるようになりましたもんね。今ではサブスクサービスもたくさんあるし。

「ところが実際は映画業界は自分が試算したほどには落ち込んでないんですよね。ミニシアターの売り上げもほとんど横ばいで推移している。これは自分の読み違いです。だけど、今でも自分は思ってます。映画館で見る映画と配信で見る映画は別物です。情報の拡散をねらうなら映画は公開と同時に配信した方がいい。今、日本では劇場で公開した後に配信するゆうのが主流ですわね。それを同時に配信して、もちろん映画館で見たいゆう人は来てもらったらいいし、そのためにも映画館では積極的に映画上映のイベント化をやっていこうと」

――なるほど。

「自分は舞台挨拶を重要視しているんですよね。イベントだからこそ来る人がいる。そしてお客さんに写真撮影タイムを作ってSNSで発信してもらう。1時間半とか2時間もトークの時間を設けて、それで同じ値段やったら損やないかと思ったことも昔はあったんですけど(笑)、やっぱりお客さんに来てもらって発信してもらうことが結果として興行成績につながってくるという確信があるんです。コロナ以降は、オンラインの舞台挨拶も増やしましたね。そうするしかなかったというのもあるんですが、韓国にいる監督とトークができるとかね、シリアにいる監督の話を聞いたり、そんなのはコロナ以降だからこそのアイデアでしたね」

――第七藝術劇場やシアターセブンというと、インディー系の映画を上映する劇場というイメージですが、これは昔からですか?

「立地をみたらわかりますやん。近くに梅田があって、映画といえば梅田が主体ですわ。それで、梅田でかからんような映画が十三に来てる(笑)。その結果として、ドキュメンタリーとか社会性の強い映画とか芸術性の強い映画が多くなった。シアターセブンは開館当初からインディー映画業界を支える意味合いもありました。最初は自分も特に社会性を押していこうと思っていたわけやないんやけど、そこしかしかたがない」

第七藝術劇場の1階下にあるのがシアターセブン(2022年6月撮影)

――大きな劇場がたくさんある梅田と十三の位置関係も関係していると。

「うちの映画館を有名にしたのが、2008年に『靖国』ゆう映画(李纓 監督のドキュメンタリー『靖国 YASUKUNI』)を上映したことです。あの映画をめぐって、右翼の反発が大きくて、全国の劇場が上映を見送ったんですよね。たまたま新聞社の記者がうちに来とって、『予定通り上映するよ』ってゆうたらその次の日の新聞に『第七藝術劇場は予定通り上映!』みたいな記事が出たんですよ。次の朝、出勤したらテレビ局が待ってるんですよね(笑)。そこでも改めて、『うちは予定通り上映します』とゆうてしまったんです。結果的には街宣車が一台来たぐらいでしたけど、それで一気に社会派の映画館というイメージができた」

――七藝やシアターセブンがあることは十三にとって大きな意味を持っているような気がします。

「映画館がある町は減ってきてるんですよ。シネコン中心になってるからね。町に映画館があること自体が貴重なんですね。うちのお客さんを見ると、淀川区のお客さんというのは全体の5%なんです。その他はみんなよそから来てはるんですよ。それだけのお客さんを十三に呼び込んでいるということですよね。年間でいったら8万人ほど来ている。そうやって人を呼び込めないと町が活性化しない。だからもっと十三にライブとか演劇をやれるところがあったらいいと思ってるんですけどね」

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「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

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プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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