ウクライナの「戦場」を歩く 第3回

善悪を失ったロシア兵?

伊藤めぐみ

■ロシア兵のローテーション

ロシア軍の中にも異なる兵士がいることはマカリウに限らず、ブチャでも聞いた。一番わかりやすい説明をしてくれたのは、道端で花壇を整備していたある男性だった。

「1回目、2回目の兵士のローテーションで来たのはスラブ系の兵士だった。19歳とか20歳とかそんな若い兵士ばかり。まあ、子どもさ! 最初の部隊は私たちが外に出ることも見逃してくれたし、空に向けて発砲する威嚇射撃が主だったよ」

ロシア兵のローテーションについて教えてくれた男性(4月12日の八尋伸・撮影動画より)

しかしその後、部隊の性格がかわる。

「それから(モンゴル系の)ブリヤート人が来た。奴らが酷かった」

プーチンは当初、ロシア軍がウクライナを制圧するのは簡単だと思っていたようだ。ウクライナ人が歓迎してくれると思っていたとも言われる。

しかし思いもよらず苦戦し、ウクライナ側からの激しい反撃や反感に直面する。これではまずいと考えたロシア軍は、おそらく心情的にもウクライナ人に同情してしまいやすいスラブ系のロシア人ではなく、ウクライナ問題に疎いブリヤート人やチェチェン人、またダゲスタン人(チェチェン人と同じくコーカサス系)に派兵する部隊を切り替えたのだろう。

アンドリーウカという町では義理の息子を殺されたという夫婦がこんな話をしてくれた。

「彼らは家の金品を盗んでいったり酷かった。家の中にトイレがあると言って驚いて私たちに嫉妬していたね」

貧しい地域の兵士が戦争に送りこまれているようだった。貧しいのはスラブ系の若い兵士も同じだったそうだ。

「ブリヤート人の兵士達と話したら、『戦争に行ったら家に電気を引いてやる』とか、『大学の学費を払ってやる』と言われたというんだ」

カディロフツィの兵士やブリヤート人が残虐で、スラブ系の兵士が優しいという話でもない。比較の問題であり、スラブ系の兵士も殺害をしているのだ。

またどの兵士もドラッグを使い、ウォッカを飲んでいることが多かったそうだ。オレッサさんも兵士たちの目はいつも焦点が定まらない様子だったと教えてくれた。

いくつもあるロシア軍占領地の中で、特にブチャで殺戮の規模は酷かった。

ロシア兵の様子に関して、ブチャだけで聞いた証言がある。最後に「黒い制服の部隊」が来たというのだ。

「ブチャが解放される1週間くらい前の3月26、27日にロシア軍の真っ黒な制服を着た部隊が来て、あちこちに乱射していった」

地域防衛隊に入っていたという青年ジボロフ・ボグダンさんが教えてくれた。

29日にはロシア軍はキーウ近郊からの撤退を発表している。つまりこの頃にはすでに占領は諦めていた可能性もあるのに、ただ「恐怖を植え付ける」、あるいは「自分たちの証拠を残さない」ためだけに住民を虐殺していったかもしれないのだ。前回書いた、外でお湯を沸かしていた友人2人を殺されたという男性の話も、この部隊のことを指しているようだった。

黒い制服の部隊は、民間軍事会社であるワグネルの兵士ではないか、あるいはロシア連邦保安庁(FSB)のメンバーではないかという見方もあるようだ。

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ウクライナの「戦場」を歩く

ロシアによる侵攻で「戦地」と化したウクライナでは何が起こっているのか。 人々はどう暮らし、何を感じ、そしていかなることを訴えているのか。 気鋭のジャーナリストによる現地ルポ。

プロフィール

伊藤めぐみ

1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社に入社し、テレビ・ドキュメンタリーの制作を行う。2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。その他、ベトナム戦争や人道支援における物流などについてのドキュメンタリーをNHKや民放などでも制作。2018年には『命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。現在、フリーランス。イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程への留学経験がある。

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