ウクライナの「戦場」を歩く 第8回

「人道回廊」のウソホント

伊藤めぐみ

■子どもまでタトゥーを探される

テントの外に出ると、ニット帽の男性がジェスチャーで八尋さんにタバコはあるかと聞いてきた。マリウポリ近郊からの避難民だった。彼はロマで、子ども6人と妻と逃れてきたという。

「2日前にマリウポリから到着したところです。隣の家からは凄まじい悲鳴が聞こえていて、近くの老夫婦の家は真っ黒に焼き払われていました」

ロシア兵は彼の家にもやってきたそうだ。

「ロシア軍は私にタトゥーがあるかを探していました」

他にも、武器を使い続けることでできる肩や手の「たこ」を確認していた。ロシア軍はこれらの有無によってネオナチやウクライナ軍兵士か否か、敵とみなすべきかどうかを判断していた。男性たちは下着姿にされてチェックされるという。

「子どもまでチェックされたよ!」

彼は呆れたように笑った。彼の子どもは一番大きい子でも11歳だ。

一家はこれから市内にある宿泊所にボランティアの車で向かうというので、見送った。

上述のマリウポリから来たアルトル・ヤブロコフさん(29歳)とその家族。4月24日に筆者が撮影

ここは「ハブ」と言われているだけあって、経由地になっているようだった。人々は避難民としての登録を行い、必要な支援情報を得たり、宿泊先の紹介を受けたりして、新しい目的地へと向かう。

中にはポーランドなど外国へ行くことを希望する人もいるらしい。ここから直接、行政や支援団体の用意したバスに乗ってそのまま現地に向かうこともあるという。

多くの人たちが行き来する場所なのだ。

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ウクライナの「戦場」を歩く

ロシアによる侵攻で「戦地」と化したウクライナでは何が起こっているのか。 人々はどう暮らし、何を感じ、そしていかなることを訴えているのか。 気鋭のジャーナリストによる現地ルポ。

プロフィール

伊藤めぐみ

1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社に入社し、テレビ・ドキュメンタリーの制作を行う。2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。その他、ベトナム戦争や人道支援における物流などについてのドキュメンタリーをNHKや民放などでも制作。2018年には『命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。現在、フリーランス。イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程への留学経験がある。

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