ウクライナの「戦場」を歩く 第9回

地下に約50日間いた母娘の体験

伊藤めぐみ

2022年2月下旬、ロシアによる突然の侵攻によって「戦地」と化したウクライナ。そこでは人々はどのように暮らし、いかなることを感じ、そして何を訴えているのか。日々のニュース報道などではなかなか窺い知ることができない、戦争のリアルとは。

気鋭のジャーナリストが描き出す、いま必読の現地ルポ・第9回。
 

避難民受け入れボランティアをするマックスが、知り合った翌日にある場所を案内してくれることになった。避難民の一時滞在所だ。頼ることができる知り合いのいない避難民は一時的にそこで寝泊まりできるのである。

幼稚園やホテルなどが滞在所になっており、ザポリージャに100箇所近くあるらしい。中でもマックスが紹介してくれる場所は女性や子どものいる家族を中心に受け入れているという。

安全上、場所は非公開だが、彼がここの責任者と友達ということで特別に行けることになった。

ヨーロッパのメディアはザポリージャにいっぱい来ているけれど、日本からはまだ少ないからね」

と言われてしまい、責任を感じる。

■工場の倉庫から避難民シェルターに

その一時滞在所はザポリージャの中心地から車で20分ほどの落ち着いた郊外にあった。

もともとは工場の地下倉庫だったが、ソーシャル・ワーカーの女性が所有者と交渉して、滞在所に作り替えてしまったというのだ。すべてボランティアと寄付で運営されているらしい。

前日に訪れた避難民ハブでは、人々はロシア軍占領地から逃れてきたばかりで、疲労困憊の様子だった。しかしここには平穏を噛みしめる落ち着いた雰囲気があった。

150人分の二段ベッドが並べられ、子どもたちが遊べるスペースも用意されている。ボランティアの人たちが交代で、一緒に工作やダンスをして遊んであげていた。

倉庫に設置された避難民のための二段ベッド。4月25日に筆者が撮影
子どもたちの遊び場と寄付された衣服。4月25日に筆者が撮影
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ウクライナの「戦場」を歩く

ロシアによる侵攻で「戦地」と化したウクライナでは何が起こっているのか。 人々はどう暮らし、何を感じ、そしていかなることを訴えているのか。 気鋭のジャーナリストによる現地ルポ。

プロフィール

伊藤めぐみ

1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社に入社し、テレビ・ドキュメンタリーの制作を行う。2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。その他、ベトナム戦争や人道支援における物流などについてのドキュメンタリーをNHKや民放などでも制作。2018年には『命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。現在、フリーランス。イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程への留学経験がある。

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