ウクライナの「戦場」を歩く 第10回

メディアスクラムとアゾフスターリ製鉄所

伊藤めぐみ

■変な戦場ジャーナリスト

正直なところ、戦地では変な人に出会うこともそれなりに多い。もちろんちゃんとした人もいるし、尊敬すべき人もいる。情報交換をして助け合うことも数知れない。でもやっぱり、自戒を込めて首を傾げたくなる人もいる。

アンドリは以前、ブチャで拷問されたという遺体の撮影を待つ列に並んでいた時のことを教えてくれた。

あるイギリス人女性ジャーナリストが、「イッツ・ショータイム!(ショーの時間ね!)」と悪びれることもなく言ったそうなのだ。アンドリはブチ切れそうになったという。

別のウクライナ人通訳からは、こんなことを言うジャーナリストもいたと聞いた。

「僕は前線に行きたいんだ。前線に行くとアドレナリンが出るんだ!」

そういう感覚を持つ人のことを否定しようとは思わない。でもそれを逃げられない状況にある現地の人にわざわざ言う必要があるのか。

非日常にいると判断基準がおかしくなる。それは戦場だからでもあるし、また他のジャーナリストへの対抗心からくる焦りのせいでもある。

私も自分の雇った通訳と共にインタビューをしていた時に、ど真ん中にカメラをねじ込まれてやや憤慨したことが今回の取材でもあった。

外国人ジャーナリストみなが常に通訳を雇っているわけではない。なので、誰か英語が喋れる現地の人や通訳者がいると、便乗して話を聞くことはある。私もやってしまったことがある。

取材の際には、一対一の関係が大事なこともあるが、多くのジャーナリストがすでにいる現場では、取材相手が何度も同じことを話さなくてすむようにみんなで話を聞くほうがいい場合もあるとは思っている。

だから私もカメラを割り込まれた際には何も言わなかった。取材相手はいろんな人に話を聞いてもらいたいだろうと感じていたし、そのジャーナリストに対して「撮影しないで」とも思わない。

しかしせめて一歩引いて撮影するくらいの取材者同士のマナーがあるのではないかと思ってしまった。

いずれにせよ、私にしてもそのジャーナリストにしても、自分のことしか考えていないのだ。取材者のメンツの話など避難民にはどうでもいいはずのことだ。こんなことでイライラする自分が恥ずかしくもなる。

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ウクライナの「戦場」を歩く

ロシアによる侵攻で「戦地」と化したウクライナでは何が起こっているのか。 人々はどう暮らし、何を感じ、そしていかなることを訴えているのか。 気鋭のジャーナリストによる現地ルポ。

プロフィール

伊藤めぐみ

1985年三重県出身。2011年東京大学大学院修士課程修了。テレビ番組制作会社に入社し、テレビ・ドキュメンタリーの制作を行う。2013年にドキュメンタリー映画『ファルージャ ~イラク戦争 日本人人質事件…そして~』を監督。同作により第一回山本美香記念国際ジャーナリスト賞、第十四回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞を受賞。その他、ベトナム戦争や人道支援における物流などについてのドキュメンタリーをNHKや民放などでも制作。2018年には『命の巨大倉庫』でATP奨励賞受賞。現在、フリーランス。イラク・クルド人自治区クルディスタン・ハウレル大学大学院修士課程への留学経験がある。

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