WHO I AM パラリンピアンたちの肖像 第8回

地雷

サフェト・アリバシッチ 激動の時代に、シッティングバレーボールと出会う

黒川祥子
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 1997年、サフェトはボスニアに戻る。16歳になっていた。内戦は2年前に終結し、砲弾に怯える日は過去のものとなっていた。

 故郷に戻ったサフェトは、家にひきこもりがちになった。

「ボスニアに戻ってきた時、どうしていいのか全くわからず、希望をすべて失っていた。杖をついて歩くたびに激痛が走り、本当につらかった。でもそれよりも、同年代の子どもたちに、杖をついて歩く自分を見られるのが一番嫌だったんだ。彼らは何も持たずに歩けるのに、オレには装具が必要だったから。学校でみんなが走っているのに、オレはゆっくりしか歩くことができない。どうしたって、追いつくことができないんだ」

やっと出会えた「正しい道」

 ひきこもりがちなサフェトを、母や友人たちは何とか外へ連れ出そうとした。母親は地元の障がい者スポーツクラブを勧めた。これがサフェトと、シッティングバレーの出会いだった。ルカバッツには、「シノヴィ・ボスネ」というクラブチームがあった。

 そのチームにはエディン・イブラコヴィッチという、当時のボスニア・ヘルツェゴビナ代表選手がいた。エディンやクラブチームのメンバーから勧められ、サフェトはシッティングバレーのトレーニングを始めることとなる。

「最初のコーチが、オレ一人でボールを壁に当てて練習させたんだ。今じゃ考えられないことを。壁に100回ボールを当てろ、100回指で弾けとか、横に弾き出せとか。でも上達したい気持ちがあったし、とにかくトレーニングに通ったよ。多くの同級生はオレが障がい者のスポーツをしているとからかった。オレには他のスポーツはできないのに。でも、オレがこのスポーツで成功するように、トレーニングをしっかり続けるように励ましてくれる友達もいた。そのおかげで、オレは正しい道を選んだと思えたんだ」

 サフェト自身、足は失っていないが、チームメイトには片足どころか両足を切断した選手もいる。

「1回目のトレーニングを終えて家に帰り、寝ようと思って目を閉じると、足のない人ばかりが見えてきて、正直、恐ろしくなった。でも時間とともに、その恐怖に打ち勝ち、受け入れることが出来た。こんなオレだったのに、チームメイトはいろいろと助けてくれて、みんなの間に溶け込めるように協力してくれた。それはとても貴重な体験だった」

(C)Paralympic Documentary Series WHO I AM

 とはいえ当時、16歳のサフェトはなかなか、年上の人たちに馴染むことができない。

「周りが大人ばかりで、馴染めなかったんだ。しかし、1年後、1歳年上のエルミン・ユスフォビッチという友達が入ってきたことで楽しくなり、真剣にバレーに取り組むようになったんだ」

 エルミンが、会ったばかりの頃の写真をサフェトに見せ、こう話す。

「同じ年頃のサフェトがチームメイトだったので、バレーは楽しかった。お互いが心の支えになりました。友達としても頼り甲斐があり、コートの外でも友達だし、頼りになるヤツですよ」

 エルミンは97年5月、畑仕事をしている最中、地雷を踏み、片足を切断した。

「これで、同年代のスパーリングパートナーができたんだ。年上の先輩たちから学ぶことは多かったけれど、やっぱり、エルミンと練習したほうがラクだった。何か間違えたら、一緒に改善していこうと話し合って行けたから」

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 第7回
WHO I AM パラリンピアンたちの肖像

内戦で足を失った選手、宗教上の制約で女性が活躍できない国に生まれたアスリート……。パラリンピアンには、時に五輪選手以上の背景やドラマがある。共通するのは、五輪の商業主義や障害者スポーツに在りがちなお涙頂戴を超えた、アスリートとしての矜持だ。彼らの強烈な個性に迫ったWOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。番組では描き切れなかった舞台裏に、ノンフィクション執筆陣が迫る。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

9/1(日)15時、『WHO I AM パラリンピアンたちの肖像』刊行記念イベント開催決定!

 
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