はしっこ世界論 “祖父の書庫”探検記 第2回

「食」の見方を広げるための1冊

飯田朔

 

 おわりに

 

 久しぶりに会った人への近況報告で、まず食べることについて話し出しそうになってしまう、ぼくがそんな風になった元々のきっかけは、3年ほど前スペインへ留学するために貯金をする必要があり、日々節約して過ごしていたことにある。旅行へ行ったりできないので、代わりに何か気晴らしになることはないかと考え、元々渋い定食屋や甘味屋が好きだったので、次第に街歩きをかねてそうした店へ足を運ぶようになった。

 料理については、スペインへ留学する前に母から少しずつ教えてもらい、スペインへ行ってからは住んでいた学生アパートで自炊をするのが楽しく、昨年のはじめに留学が終わり、いまは東京の実家で週に1~2回家族の分の夕飯を作っている。

普通の夕飯も作る

 今回「食」に関する本を取り上げたのは、「食」には、ぼくの好きな映画や本、漫画といったものよりも、もっと簡単に多くの人を引きつける何かがあると思えてきたからだ。ぼく自身は、疲れていて映画や漫画などを見たり読んだりする気にならないときでも、何かおいしいものを食べようとすると、重い腰が上がる傾向がある。また、普段「これがしたい」ということをあまり主張しない友人たちでも、一緒に出掛けたとき何を食べるかという話になると、「今日は肉じゃなくて魚が食べたい」とか、「食」に関しては欲求が表に出てきやすいことが多い。そもそも食事は、人と会ったり、話をするきっかけにもなる。この数年、そういった「食」をめぐるあれこれを振り返り、「食欲」は人を動かす大きな要素であると思えたのだ。

 そういうことを考えていて、ふと周りの同世代に目を向けると、ぼくのオタク的な熱の入れ方とは少し違うのかもしれないが、同世代の間でもライトな形で「食」への関心が広がっているように思え、興味をひかれた。いまの若い人たちの控えめな「食欲」の裏には、その生活のしんどさが半分透けて見える気がする。

 おそらくぼくの同世代、またはさらに下の世代の人にとっては、今回の本で柴谷篤弘が書いている助言は、やや重苦しく、面倒くさいことだと感じられるかもしれない。けれど、例えばざるそば一杯、いちごのかき氷一杯、カフェのパンケーキセットといったものをお気に入りの店で注文し、自分のペースで料理を口に入れる、そんななんてことのない食事ができなくなるかもしれないことについては考えてみてもらいたいと思う。

 今回読んだ本は、食いしん坊だったぼくの祖父の書庫にあった、これまた非常に食い意地が張った柴谷篤弘が書いた料理本だ。ただの教養深いおじさんが書いたものではなく、人一倍「食欲」を大事にしていたであろう先人からのアドバイスであること、そのことにぼくは重みを感じた。

 

 

 

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はしっこ世界論

30歳を目前にして、やむなくスペインへ緊急脱出した若き文筆家は、帰国後、いわゆる肩書きや所属を持たない「なんでもない」人になった……。何者でもない視点だからこそ捉えられた映画や小説の姿を描く「『無職』の窓から世界を見る」、そして、物書きだった祖父の書庫で探索した「忘れられかけた」本や雑誌から世の中を見つめ直す「“祖父の書庫”探検記」。二本立ての新たな「はしっこ世界論」が幕を開ける。

プロフィール

飯田朔

塾講師、文筆家。1989年生まれ、東京出身。2012年、早稲田大学文化構想学部の表象・メディア論系を卒業。在学中に一時大学を登校拒否し、フリーペーパー「吉祥寺ダラダラ日記」を制作、中央線沿線のお店で配布。また他学部の文芸評論家の加藤典洋氏のゼミを聴講、批評の勉強をする。同年、映画美学校の「批評家養成ギブス」(第一期)を修了。2017年まで小さな学習塾で講師を続け、2018年から1年間、スペインのサラマンカの語学学校でスペイン語を勉強してきた。 

 
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