鳥取県の山間部。「隠れた場所」の象徴のようなこの土地には、豊かな可能性を秘めた「宝物」がひっそりと眠っている。
私は古民家や地域の再生を手伝う仕事をしています。その中で、普通ならなかなか行けないような場所に案内してもらうことがあり、日本の田舎の面白さを色々と知る機会に恵まれました。そのような場所では、地域の素晴らしい側面だけでなく、現在抱えている課題と今後の望みも垣間見ることができます。今回は仕事で訪れた場所を一つ紹介しようと思います。
二〇一二年から私は「ダイニングアウト」という「食」をテーマにしたイベントに携わっています。これは、都会の有名シェフを地方に呼んで、地元の食材を最先端の発想・技術で調理して、ゲストに提供するという試みです。イベントでは、単純に食事だけでなく、その舞台となる会場選びにもこだわっており、現地の文化財や自然環境をクローズアップします。食事の際には、照明などで劇的に演出し、その地方独自の芸能を用意して盛り上げます。私の役割は、事前の調査や空間演出プロデュースで、当日はゲストが参加するツアーも先導しています。
イベントには大きく二つの目的があります。一つは、あまり知られていない日本の田舎の素晴らしさを、都会の人たちに紹介すること。そしてもう一つは、地方に新しい風を吹き込むことです。
日本の地方は、ヨーロッパなどと比較すると、食の分野でのホスピタリティに遅れを感じます。旅館の典型的な光景に、食卓いっぱいに品数を競うように並べられた料理がありますが、大抵は地域の食材をうまく扱う術を持たず、冷凍食品などを持ち込み、ボリューム感と派手な飾りつけに力を注いだだけのものです。一昔前までなら、それでもよかったのですが、今日では、もっとイマジネーションを効かせた、クリエイティブな料理が求められています。
二〇一八年の秋に行われたイベントは、鳥取県の八頭(やず)町(ちょう)が開催地でした。それまで私は鳥取に対して、砂丘と大山(だいせん)くらいしか思い浮かぶものがなく、八頭という地名すら聞いたことがありませんでした。そこで、事前に何度か足を運んで、町にあるお寺や田畑などを見て回りました。
後日、八頭の隣町となる智頭町(ちづちょう)も案内してもらい、町の担当者から、見どころとなる数ヶ所を、いかにして再生すればいいかという相談を受けました。智頭は森林の町として知られていますが、八頭同様、私にとっては初めての場所でした。
ニッポン巡礼の目的は、地域の再認識と、未踏の地に新たな発見を求めることです。地方には、あまり知られていない宝物がたくさん眠っています。予備知識がないまま訪れた八頭と智頭にも驚くような発見があり、この土地の奥をもっと見てみたいと思って、今回の再訪を決めました。
著名な観光地から一歩脇に入った、知る人ぞ知る隠れた場所には、秘められた魅力が残されている。東洋文化研究者アレックス・カーが、知られざるスポットを案内する「巡礼」の旅が始まる。