大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 Vol.3

NYのジャズシーンってどんな感じ?

大江千里

そもそもはマイルスが発した言葉

この「JAZZ IS DEAD」ですが、そもそもはモダン・ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスが発した言葉です。「俺の音楽をジャズと呼ぶな! ソーシャルミュージックなんだ」とインタビューの最中に記者を戒めるように発言したのです。優れた音楽家には共通してあらゆる音楽に精通している面があり、ひとつのジャンルだけにとどまらないところがあります。マイルスの言葉を言い変えれば、音楽にジャンルやスタイルを要求してそこへ押し込めるよりも、その作品の「品質や文化的共鳴」をむしろ重視しろ、ということだったのだと思います。

マイルス・デイヴィスは18歳のころ、セントルイスにビリー・エクスタイン楽団がやってきた時、病欠のトランペッターの代役を務め、ジャズの神様、チャーリー”ヤードバード”パーカー(サックス奏者、作曲家、ジャズのビバップスタイルを確立した音楽家)とディジー・ガレスピーとの共演を果たし、キャリアがスタートします。彼はその後すぐにニューヨークのジュリアード音楽院に入り、チャーリー”ヤードバード”パーカーと演奏を共にし、同じ部屋で暮らします。

トランペッターであるディジー・ガレスピーの明らかなフォロワーとしてその演奏には影響が聴き取れますが、マイルスを語る上で重要なのは、ディジーの明らかなフォロワーだったのに、コピーというよりも「自身のカタチ」を早い段階で作り出した点です。あの簡単なフレーズを吹いているような独特なオリジナリティ。

多くの名手たちは、演奏において高速スピードを好み、急降下するような跳躍や下から上までの感覚を跨ぐ音程の動きをよくします。しかしマイルスにはそれがほとんどありません。ピカソの絵のように一見シンプル、ともすれば「真似できるかも?」とこっちに思わせるくらい身近だったりするわけです。ところがどっこい唯一無二で奥が深い。

演奏家の中でもそれを実現できるアーティストは限られています。早弾きをする人はとにかくたくさんいますけれど。

彼がバラードを演奏するときはまるで歌手が歌っているようです。エディット・ピアフやレイ・チャールズ、ニーナ・シモンといったボーカリストさながらの雄弁さでとにかく歌います。シオにも共通して言えることですが、演奏が終わると出し切って放心状態に僕には見える時があります。どこか痛いのではと思うほどの苦悩の表情を読み取れる時もあります。

シオの最新作の中の『JAZZ IS DEAD』はマイルスに起因するものであることは明らかです。そして、何よりもシオはマイルスの持っていた大きな耳、つまりジミ・ヘンドリックスやスライ・ストーン、ボブ・ディラン、クラシック音楽に至るまでジャンルレスに音楽を聞き取れる巧みな力こそが今のジャズシーンには大事だと暗示しているように僕には思えてなりません。

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 Vol.2

プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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