ソーシャルミュージックの未来
不思議なもので前述した素晴らしいニューヨークのジャズベニューも実際すべてのアーティストへ門戸が開かれ、平等に発表の場所としてその場が提供されているかといえば、なかなか難しい面もあります。一般的にジャズというだけで演奏する場所が限られてしまったり、逆にアーティストを選別してしまったりして、可能性を奪っている側面もあるのではないでしょうか。実際、チャートでも故人のカタログばかりが未だに上位にランクインしていたり、ジャズの「権威主義」が新しい変化を許さない側面があったり、それがどんどんジャズと呼ばれている場所を狭くしているような気がします。
そんな古い体質を新しい感覚を持つ世代が今ぶち破り変えようとしている、そんな時代に入っているのかもしれません。僕が「ソーシャルミュージック」という言い方に未来を感じている理由の一つには、いろんな媒体とくっついて広がっていく可能性を持っている点です。チャットルームみたいなところにみんながアバターで集まって、仮想のDJブースに順番に上がって好きな曲をかけるサイト「turntable.fm」が出現しています。ルームに集まったオーディエンスから評価ポイントを稼ぎます。そしてポイントが集まるとアバターが進化したり、ファンが集まるようになったりする。ソーシャルゲームとソーシャルミュージックをかけ合わせたようなサービスです。
「今、ヴィレッジヴァンガードでケニー・バロントリオを聴くところ」ってジャズ好きにメールすると「へえ、そこへ行けたらなあ」という人が現れるわけです。それに対して「ケニー・バロン的な部屋を今から開催するよ」とXでツイートすれば、遊びに来た人たちとチャットが始まります。ライブ会場とは別次元で世界をソーシャルに結ぶDJブースがここに出現するわけです。こんなふうにすればジャズが新たな広がりを見せることができるかもしれません。
プロフィール
(おおえ せんり)
1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。