シングルマザー、その後 第4回

”セックスワーカー”という選択

黒川祥子

酒乱に、暴力

 

 一緒に暮らしてわかったのは、夫は毎日、浴びるように酒を飲み、酔っぱらうとネチネチ絡んでくる酒癖の悪さがあることだ。やがて、真希さんへ暴力を振るうようになった。

「頬っぺたをパーでパシーンと殴られて、もうショックでした。私は、これは耐えられないと思って……」

 真希さんが「私は」というのは、夫の母、つまり義母が義父の暴力に耐え続けてきた人だったからだ義父もまた毎日、大量に酒を飲み、妻へ殴る蹴るの暴力を振るう人物で、義母は長年、それに耐えてきた。

「夫はすぐ酒に飲まれて、ネチネチ因縁をつけて、パーやグーで顔を殴る。翌日、謝ってくることもあれば、覚えてないとか」

 耐えかねて、友人の家に避難したこともあった。そうなると、夫は知っている限りの真希さんの友人に電話をかけまくり、連れ戻す。束縛も強く、真希さんが友人と出かけることを嫌がるなど社会的DVもあった。

 二人は息子の誕生を機に、夫の実家に身を寄せた。夫の収入だけでは、子どもを育てていけないからだ。気が進まない同居だった。

「狭い家なのに、義父は夫の兄や弟たちや自分の友人を呼んで毎日、宴会をやるんです。お金は全部、自分持ちで。トイレだって毎夜、行列ですよ。商店とか自営業なら、まだ、わかるんです。お客さまですから。でも義父は会社員、意味がわかりませんでした」

kouta / PIXTA(ピクスタ)

 

 嫁なので、準備を手伝わないといけないのも負担だった。真希さんは「こんなところで、育児なんかできない!」と痛切に思った。義父の義母への暴言や暴力も否応なく目に入る。

「お父さんのお母さんへの暴力も見せられるのも耐え難く、一日も早く、この家を出たいって、それしかありませんでした。子どもが3歳とか、もう少し、大きくなるまで我慢して……というのは、私には無理でした」

 子どもの首が据わった頃、真希さんは子どもを連れて実家に戻った。二度と帰るつもりはなかった。

 半年後に、なんとか協議離婚が成立。養育費は月5万円と決めたが、払われたことはここまでない。当時はまだ、養育費取り立てに、強制力はなかったこともあるし、元夫はすぐに再婚し、子どもが数人できたと友人から聞いた真希さんは、しょうがないと諦めた。

 ちなみに2019年5月に民事執行法が改正され、「第三者からの情報取得手続き」という新しい制度ができたことで、養育費の強制執行などによる養育費の取り立てが可能となった。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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”セックスワーカー”という選択