酒乱に、暴力
一緒に暮らしてわかったのは、夫は毎日、浴びるように酒を飲み、酔っぱらうとネチネチ絡んでくる酒癖の悪さがあることだ。やがて、真希さんへ暴力を振るうようになった。
「頬っぺたをパーでパシーンと殴られて、もうショックでした。私は、これは耐えられないと思って……」
真希さんが「私は」というのは、夫の母、つまり義母が義父の暴力に耐え続けてきた人だったからだ。義父もまた毎日、大量に酒を飲み、妻へ殴る蹴るの暴力を振るう人物で、義母は長年、それに耐えてきた。
「夫はすぐ酒に飲まれて、ネチネチ因縁をつけて、パーやグーで顔を殴る。翌日、謝ってくることもあれば、覚えてないとか」
耐えかねて、友人の家に避難したこともあった。そうなると、夫は知っている限りの真希さんの友人に電話をかけまくり、連れ戻す。束縛も強く、真希さんが友人と出かけることを嫌がるなど社会的DVもあった。
二人は息子の誕生を機に、夫の実家に身を寄せた。夫の収入だけでは、子どもを育てていけないからだ。気が進まない同居だった。
「狭い家なのに、義父は夫の兄や弟たちや自分の友人を呼んで毎日、宴会をやるんです。お金は全部、自分持ちで。トイレだって毎夜、行列ですよ。商店とか自営業なら、まだ、わかるんです。お客さまですから。でも義父は会社員、意味がわかりませんでした」
嫁なので、準備を手伝わないといけないのも負担だった。真希さんは「こんなところで、育児なんかできない!」と痛切に思った。義父の義母への暴言や暴力も否応なく目に入る。
「お父さんのお母さんへの暴力も見せられるのも耐え難く、一日も早く、この家を出たいって、それしかありませんでした。子どもが3歳とか、もう少し、大きくなるまで我慢して……というのは、私には無理でした」
子どもの首が据わった頃、真希さんは子どもを連れて実家に戻った。二度と帰るつもりはなかった。
半年後に、なんとか協議離婚が成立。養育費は月5万円と決めたが、払われたことはここまでない。当時はまだ、養育費取り立てに、強制力はなかったこともあるし、元夫はすぐに再婚し、子どもが数人できたと友人から聞いた真希さんは、しょうがないと諦めた。
ちなみに2019年5月に民事執行法が改正され、「第三者からの情報取得手続き」という新しい制度ができたことで、養育費の強制執行などによる養育費の取り立てが可能となった。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。