シングルマザー、その後 第4回

”セックスワーカー”という選択

黒川祥子

食べるため、行き着いたのは

 

「昼間の仕事、探してんだけど、全然なくて、もう超やばいんだけど」

 真希さんは、小学校以来の友人に愚痴を吐いた。ただ、それだけだったが、ここが人生の大きな転機となった。彼女の口から、予想もしないことが語られた。

「実は私、吉原で働いていたことがあるんだ。別に勧めるわけじゃないけど、短時間でガッツリ稼げるし、保育園に出す証明書も会社名で作ってくれるし、子どもの病気で保育園からしょっちゅう電話がかかってきても、全然、大丈夫。普通の会社だと、それで、クビになったりするじゃん? もし、やるんだったら、紹介するよ」

 真希さんは、この話に乗った。大きかったのは、昼間に働けることだ。この仕事に変えたことで朝9時から18時まで子どもを保育所に預け、自身は10時から16時まで働き、夜は子どもと一緒に過ごすという日々が始まった。おかげで、子どもには20時就寝という規則正しい生活サイクルを作ることができた。

 実際、それはどんな仕事なのか。

「お店は“高級サウナ”と看板を出していますが、本番行為を行うところです。1人50分のコースが多かったと思います。昼間でもお客さんは来るので、週4日やって、トータルで月50万ぐらいになったと思います。お客さんが1人つけば1万円、一日に5人つけば5万円です。そこから雑費を3000円ぐらい引かれて、4万7千円をその日に手渡しでもらえます」

 真希さんは「本番行為」と、何の躊躇もなく真っ直ぐに語った。予想もしない展開に、度肝を抜かれた。正直、動揺を隠し切れたか定かではない。そうだ、真希さんは自ら志願して、「ありのままの自分」を伝えにやってきたのだ。それは、自分は決して恥ずかしいことなどしていないという、自負があるからだ。

 一日5万円、という具体的な数字も初めて聞くことだった。さらに驚きなのが、その「お店」では、性産業で働いていることをカモフラージュするための、さまざまな手段も用意されていた。真希さんは化粧品とアクセサリーの販売を行う会社員ということで、社員証が発行され、役所への提出書類として必要なら勤務証明書だけでなく、販売員としての給料明細も出してもらえるという、ダミー会社もあった。

「息子は今も、私がアクセサリー販売の仕事をしていると思っています」

 しかし、仕事とはいえ、本番行為をすることに抵抗がなかったとは言えないだろう。

「最初の頃は苦痛でしたし、嫌だなと思っていました。でも結局、嫌だなと思ったところで、他にはやれることもないので。じゃあ、どうやって生活していくのか。なので、嫌だなと思うことが、もう無意味だなと思うようになりました。嫌なお客はいますが、そこまで変なことをされたことはないし、お店が女性を守ってくれますから」

 真希さんが夜、家にいるようになって、子どもの様子に変化が生じた。

「何よりよかったのは、目に見えて、子どもの状態が安定したことです。夜、ぐずって寝ないことも無くなったし、保育所に行くことを嫌がらないようになりました」

 母子世帯の貧困率は5割を超え、シングルマザーは昼だけでなく、夜も働くなど、二重働きを余儀なくされることが多い。そうなると子どもは夜、一人で家にいることになる。それが子どもの成長にいかに不安定な影を落とすのかは、想像に難くない。

 真希さんが優先したのは、子どもの心の安定だった。

 この時から今まで、真希さんは本番行為を行う“セックスワーカー”として生きている。

リュウタ / PIXTA(ピクスタ)

 

 ここで、「売春」の是非を問いたくなる人も出てくると思う。性的行為と引き換えに金銭を得る行為を廃止したい人たちは、真希さんが行っているのは女性への暴力、ジェンダー差別を認める行為だと考えているようだ。セックスワークは貧困にさらされた女性がしょうがなく行うものであり、主体的にセックスワークに従事する女性はいないと。

 でも真希さんは「嫌だな」と思っても、生活のために自分でこの仕事を選んだわけだ。その考えで行くと、自らの意思で選んだ人たちのことも、“被害者”だと一括りにしてしまう。それは、その人の自由意志を無視した、むしろ差別なのではないだろうか。

 真希さんは自身も、こう語っている。

「よくホストクラブへの借金で無理やり落とされるとか、強姦まがいなことをされて無理やりみたいな、世の中がそういうイメージになっているけど、私はそういうことをされたことがないですし、自分の意思でやっている子が多かった。ダンナがヒモという人も多かったけど、強要されて働いているわけじゃなく、自分で選んで働いているわけだから」

 売春と言われる行為すべてに虐待や強制があるわけでもなく、店側が金で支配・服従させているわけでもないということだ。逆に店は、問題のある客から女性を守っているということが、真希さんの実体験から浮上する。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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”セックスワーカー”という選択