シングルマザー、その後 第4回

”セックスワーカー”という選択

黒川祥子

超難関・私立高校に合格

 

 真希さんの息子は現在、首都圏の超難関高校に通い、有名大学への進学を目指しているという。まさに、エリートの道を歩んでいるわけだ。これは本人の優秀さだけでは、叶えることが難しい道だ。学力・学歴と経済力に相関があることは、子ども格差が叫ばれた当時から指摘されている。

 真希さんは子育てに関しては、元夫を反面教師とした。息子を元夫のような「サッカーしか知らない」人間には、育てたくなかった。

 父への憧れからか、息子は小学生の頃からサッカーを始め、中高でもサッカー部に所属した。しかし、真希さんは年中、サッカー漬けにすることを避けるため、夏休みなどの長期休暇には、子どもをワークキャンプに参加させた。さまざまな場所で、多様な経験をしてほしいという思いと、子どもがいなければ自分が仕事をできるという事情もあった。

「冬休みと春休みはスキーに行かせて、夏休みはサマーキャンプに3回ぐらい行かせました。4泊5日ぐらいで、5万円ぐらいかかるものが多かったですね。その間、私はずっとお店に行って働けるので、問題はなかったです」

 中学では、自治体が主催する海外留学に、学校推薦で選ばれた。

「留学のための研修が10回ほどあって、部活を休まないといけないので、息子は文句を言うのですが、私は『部活に全部の時間を使うのはもったいない、よくないよ』と、息子に言い続けました」

 結局、この海外での体験が受験時の面接で生きることともなった。

 受験にあたってはもちろん、学習塾に通わせた。

「小学生の時はサッカーばっかりやっていたのですが、中学1年の終わり頃から塾に行くようになりました。中3で受験のために選んだ塾は高かったですね、費用が。中3の1年間だけで、テキスト代、交通費、模試代など全部含めて、100万円以上、かかっています」

 公立の進学校にも合格したが、息子の希望で私立高校を選んだ。学費が高いことで有名な学校だったが、真希さんは教育ローンを組むことなく、全て現金で支払った。学費以外に制服代、部活のユニフォーム代など20万円ほどかかる高校だ。両親が揃っていたとしても、なかなか厳しいのではないか。

「貯金は一応、子どもが高校に入学する時は1000万ぐらいありました。なので、学費の100万は払うことができたんです。この仕事をしてなかったら、どうなったのかなと思います」

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

 

 貯金が1000万と、サラリと真希さんは話す。度肝を抜かれること、2度目だ。インタビューの初め頃、真希さんが早口で「私は、貧困とはちょっと違って」と言ったのは、このことだったのだ。正規職でも、シングルマザーでこれだけの蓄えは持てないだろう。

「この仕事をしていなかったら、有名私立高校なんか、到底、行かせられません。息子ものんきにサッカーなんか、やってる場合じゃないです。あの時、この仕事をたまたま紹介されたから、今がある。そうでなければ、息子は施設に行っていたかも。私の手で育てることができたかすら、わからなかった」

 息子のこれまで、現在、そして未来を考えれば雲泥の差だ。父親こそいないが、のびのびと成長を遂げ、好きなサッカーに打ち込み、成績優秀でエリートとしての道を歩んでいる。当時、スーパーのレジ打ちすら断られた真希さんに、どんな選択肢があったのか。最終的には、生活保護か。いや、実父がいるということで、申請が通らない可能性もある。親子共倒れギリギリの苦しい日々しかなかっただろう。大学進学など、夢のまた夢だ。

 真希さんは今、「人妻系のデリヘル」で月に30万ほど稼いでいるという。週3から週4で、時間は10時から16時まで。

「今は不景気で、5人もあたることはないですね。店舗型ではないので、好きなところで過ごし、メールが入れば指定された場所に行きます。気前よく、金払いのいい人が、一番の理想のお客さまです。見た目とか、どうでもいいです」

 この状態を、息子が大学を卒業するまではキープしたいというのが切実なところだ。

「息子には、『留年したら、その分の学費はないよ』って言っています。とにかく大学へ進んで卒業すれば、ほぼ、自分の好きな職業に就けるわけですから。息子は理系志望で、私立大の理系って学費が高いじゃないですか。お金の問題は、常にあります。無くなるのは、あっという間ですから。大学卒業まではとりあえず、お金が必要なので」

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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