特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第20回

グランプリファイナル、羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』に見た希望、各選手に見た光

高山真

■女子シングル

  • アリョーナ・コストルナヤ

 NHK杯を振り返るエッセイで詳述しましたが、すべてのエレメンツの完成度がすさまじいレベル。加えて、16歳であることが信じられないスケーティングの「1歩」の大きさと、磨き上げられた振り付けの融合。ショートプログラムの演技直後、アメリカNBCの放送で、ジョニー・ウィアーが、

「She is a Dream come true.」(彼女は、夢が形になった存在です)

 と、私を含め英語圏でない人も聞き違えようがないほど、ゆっくりクリアに、この言葉を残しました。続けて、

「フィギュアスケートの素晴らしさは、劇的な芸術性やパフォーマンスを、非常に難しいテクニックと結合させること。彼女は、それをわずかなほころびもなく実現できる、滅多にいないスケーターのひとりです」

 とも語っていました。私はその言葉に一字一句賛成です。

 

  • アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワ

 今シーズンのグランプリシリーズ全6戦、女子シングルはコストルナヤ、シェルバコワ、トゥルソワの「今季からシニア参戦したロシア選手」が2個ずつ優勝を分け合う形となり、このグランプリファイナルでも表彰台はこの3人になりました。

 3人が同じ大会で演技をすると、それぞれの持ち味がさらにはっきり見えてきます。

 

コストルナヤ/スケーティングスキル(スケートの能力)と振り付け(ダンスの能力)の融合が生み出す表現力、芸術性。そしてプログラムで実施するジャンプやスピンといった技術要素の、驚異的な完成度。トータルパッケージ、コンプリートパッケージという表現がもっとも似合う選手。

 

トゥルソワ/3位のトゥルソワから先に語ることをお許しください。フリーで4回転のフリップ、サルコー、ルッツ、4回転トウ~シングルオイラー~トリプルサルコー、4回転トウを組み入れる超絶難度(サルコーは2回転、2本目の4回転トウは転倒しましたが)。スケートカナダとロシア杯では入れていなかった4回転フリップを組み入れ、成功させる超野心的な構成でした。

 言うまでもなく「ジャンプ」の技術に関しては世界ナンバーワンです。ここからスケーティングスキルをどのように伸ばしていくか、当然コーチのエテリ・トゥトベリーゼも考えているはずです。

 圧倒的な高難度ジャンプを跳ぶためには致し方ない部分もありますが、ジャンプに入る前に「氷を蹴って助走している」のが見えていること。そして「ベーシックなスケーティングのスピードの豊かさや、『エッジを切り替える瞬間も、スケートの刃全体を使って、なめらかに実施できているか』という面では、正直コストルナヤの素晴らしさのほうに目がいってしまう」こと。

 ジャンプを含めた「技術」で得点を積み上げていくか、それとも「トータルパッケージ」こそが重要か。採点競技であるフィギュアスケートが常に向き合う問題ですが、私としては、北京オリンピックに向けてトゥルソワがどう仕上げてくるかも楽しみにしています。

 4回転ルッツを跳ぶ前、バックエッジのインサイドとアウトサイドを切り替えつつ大きなS字のカーブを描く、あの見事なトランジションができる選手です。演技全体のスケーティングの密度、およびスキルの向上にも大きな期待をしているのです。

 

シェルバコワ/コストルナヤのトータルパッケージ能力とトゥルソワのジャンプ能力は、それぞれに圧倒的です。私にとってシェルバコワの能力は、「その圧倒的な能力のどちらにも、8割くらいはリーチ可能かも」と思わせることかもしれません。

 そもそも「ひとつの試合のショート、フリーで合計3本のトリプルアクセルを組み込む」というコストルナヤの構成自体、女子シングルでは奇跡の構成だと私は思っています。フリー複数の4回転ジャンプを組み込んでくるトゥルソワとシェルバコワが、現在の女子シングルにおいて規格外です。

 その大前提のもとに言うなら、シェルバコワの演技から感じるエレガンス、スケーティングの軽やかさとなめらかさに、私はとても魅力を感じます。グランプリシリーズ初戦のスケートアメリカのシェルバコワ自身と比較しても、

「ほんの2ヶ月でここまで振り付けとスケーティングの融合の『自然さ』がアップするなんて。演技面での向上があるなんて」

 という、うれしい驚きもありました。「伸びしろ」という点でいえば、グンと成長する余地がまだまだありそうで、それも非常に楽しみです。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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グランプリファイナル、羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』に見た希望、各選手に見た光