- 紀平梨花
フリーの冒頭、4回転サルコーの挑戦! 惜しくも転倒しましたが、回転自体は認定されています。
その後も、2本のトリプルアクセルを含む(コンビネーションにしたトリプルアクセルは回転不足の認定ではありましたが)、本当に密度の高いプログラムを滑りきりました。
まだ足の故障が完全には治りきっていない状態であることを考えれば、素晴らしい挑戦であり、素晴らしい演技でした。
私は紀平のジャンプはもちろんですが、スケーティングスキルの高さも大好きです。ストレスのまったくない、スーッと糸を引くようなトレースを、プログラム全編にわたって描くことができる選手だと思っています。現在、真正面から取り組んでいることがうかがえる「ダンス、振り付けとの融合」が、本人の目指すレベルで形になったとき、それがどんな光を放つのか。本当に楽しみにしています。
そして何より、ケガが完全に癒えますように!
- アリーナ・ザギトワ
この連載のNHK杯を振り返る回でも書きましたが、会場で見るザギトワは、「もともとものすごく細い人ぞろい」なシングルスケーターの中でも、際立って細く、しかも高身長だとわかります。
女性アスリートにとって、特にフィギュアスケートや体操、新体操のような採点競技のアスリートにとって、体型変化の問題は必ずついて回るのは事実だと思います。しかし、声を大にして言わなくてはいけないのは、
「あのスタイルを見れば、ザギトワが、氷上でのトレーニング以外の時間、たとえば食生活の部分でも、どれだけ厳しく高いハードルを自分に課しているかが一目瞭然である」
ということです。
「もしかしたら、一般的には決してお勧めしてはいけないレベルで節制しているのではないか」
と心配になるくらいに……。
2017-18年シーズンは平昌オリンピックで金メダルを獲り、2018-19年シーズンは世界選手権で金メダルを獲得したザギトワは、スケーターの「夢」を両方手に入れても、なお競技者としてリンクに立ち続けています。羽生結弦に対していだいている大きな感謝とリスペクト同様に、私はザギトワの誇り高き挑戦にも大きな感謝とリスペクトをいだいています。
NHK杯のフリー『クレオパトラ』は素晴らしい出来映えでした。ジャンプの着氷後にまったくストレスなく伸びていくあのスケート、そしてパッションと気高さがミックスされた演技。
トリノオリンピックのフリー、荒川静香の素晴らしい演技直後、アメリカのテレビ局で解説をしていたディック・バトン(オリンピック男子シングルを2連覇したレジェンド)が
「That’s the lady skating.」
とコメントしていました。ガールではなく、レディのスケーティング。
マチュア(成熟)な滑りとエレガンスが、強さと融合したスケーティング……。私はこれからのザギトワと、今回のグランプリファイナルに出場してはいませんが、これからのメドベージェワと宮原知子にも、「レディのスケーティング」の伝道者として、心から期待をしているのです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。