特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第20回

グランプリファイナル、羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』に見た希望、各選手に見た光

高山真

■ジュニア男子シングル

  • 佐藤駿

 ジュニアの男子シングルで優勝した佐藤駿のフリー、私はもう何十回と見返しています。

 冒頭の4回転ルッツの高さと回転軸の確かさ! ジュニアの男子が、4回転ルッツで「空中のかなり高いところできっちり4回転回り切り、余裕をもって降りてくる」という実施をしたことが、ちょっと信じられないくらい衝撃でした。

 4回転トウとトリプルトウのコンビネーションも見事だったのですが、その後の単独の4回転トウの素晴らしさといったら!

 4回転回りきるのはもちろんのこと、「回り切った後、回転を止め、キュッと締めていた両足をほどき始める」そのタイミングの早さ、その空中位置の高さ! そして着氷後の見事な流れ……。

 そしてもうひとつ特筆したいのは、プログラム中に2回実施したジャンプ、4回転トウとトリプルアクセル、どちらも「2本目に跳んだジャンプのほうが素晴らしい出来栄えだった」ということ。1本目の成功に油断することなく、「もっと上を」と、集中を高めていく……。そんな姿勢に何より感動しました。

 全日本ジュニアのフリーの演技後、キス&クライで、悔しさに涙が止まらなかった姿を覚えています。あの経験から「何か」をつかんで、バネにして、大きな試合に結実させてみせた……。今回のキス&クライで、両手を合わせて祈っていた、その手にこもった力の強さに、佐藤がどれだけこの試合に賭けていたかを感じ、熱いものがこみ上げました。

 使用曲は、ニーノ・ロータ版の『ロミオとジュリエット』。佐藤が憧れ、尊敬するスケーター・羽生結弦がソチシーズンのフリーで使用した曲でもあります。佐藤のプログラムからも、ロミオが持っている「向こう見ずなくらいのパワーと、切実さと背中合わせのパッション」を十二分に感じました。

 ジャンプの高さ、勢い、どこか実直さが漂うようなスケーティング。憧れている羽生の影響はもちろんでしょうが、個人的には日本のレジェンド、本田武史のニュアンスも感じました。佐藤も、端正さと雄大さが同居する、スケールの大きな演技ができる選手になれるはず、とワクワクがとまりません。

 

  • 鍵山優真

 なんという伸びやかなスケーティング、なんというスピード! ダンスの緩急とスケーティングの融合! 16歳の選手がここまでのスケーティングを見せてくれること自体、私にとっては大きな喜びであり、驚きです。

 コーチは、お父様の鍵山正和氏。1994年に幕張で開催された世界選手権で、素晴らしいフリーを演じました。その演技を会場で見られたことは私の「宝物の記憶」のひとつです。

 鍵山正和(現役時代の話をするので、敬称略にさせていただくことをご了承ください)は、ひざと足首を柔らかく使った、エッジ全体が氷に密着している時間が非常に長い、なめらかなスケーティングが持ち味でした。ジャンプの着氷も、そのクッションをいかした、柔らかで流れのあるもの。そんな美点を、いまでも鮮明に覚えています。

 そのお父様のスケーティングの美点を、鍵山優真のスケーティングにも色濃く感じます。スケートを始めたばかりの小さな頃から、こつこつと、かつ厳密にスケーティングを磨いてきたことが察せられます。

 全日本ジュニアで、4回転トウ2本と、トリプルアクセル~シングルオイラー~トリプルサルコーを含む、素晴らしいフリーを実施しています。ポテンシャルの高さはすでに実証済みです。

 ベーシックなスケーティングスキルが高い選手は、ジャンプの確実性が加わったとき、壁を二、三枚まとめて破る可能性も高くなる。私はそう思っています(私にとって、そういうスケーターの筆頭はパトリック・チャン)。今後どこまでの高みにのぼるのか、心躍らせている状態です。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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