特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第20回

グランプリファイナル、羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』に見た希望、各選手に見た光

高山真

■エキシビション

  • 羽生結弦

 今回のグランプリファイナルは、2006年の冬季オリンピックの開催地である、イタリアの名勝地トリノで開催されました。

 その大会のエキシビション羽生が選んだのは『ノッテ・ステラータ』。サン=サーンスの『動物の謝肉祭/白鳥』に、イタリア語の歌詞をつけたクロスオーバー的作品です。

「イタリアで開催される大会には、たぶんイタリア語の曲を選んでくるかな……」

 と思った方も多いのではないでしょうか。私もそのひとりです。

 羽生結弦というスケーターは、エキシビションにも、大きな意味や思い入れをもってプログラムを選んでいると私は感じています。日本開催の大会、前シーズンの世界選手権や今シーズンのNHK杯のエキシビションでチョイスしたのは、復興への祈りを込めた『春よ、来い』でした。

『ノッテ・ステラータ』で私が感動を覚える箇所は、拙著『羽生結弦は捧げていく』で詳述していますが、ひとつだけ。

 この曲を使った芸術作品で、突出して有名なのは、バレエ『瀕死の白鳥』です。ラストで翼をたたみ、美しい首や顔を地面に横たえるようにして、息絶える白鳥。歴代の名プリマドンナが演じてきた白鳥は、壮絶なまでに美しいものです。

 対して、羽生が演じる『ノッテ・ステラータ』を白鳥になぞらえるなら、「生きていく白鳥」だと私は感じます。

 演技のラスト、翼はたたむのではなく、広げられています。その首や頭は横たえるのではなく、上を向いています。

「ここから、白鳥はさらに高い場所へ飛び立っていく」

 私は羽生の今回のエキシビションから、そんなメッセージを受け取ったように感じています。

 4回転ルッツを試合に組み込み、見事なクオリティで成功させました。公式練習中にトライした4回転アクセルの、まったくブレない回転軸の確かさに本当に驚き、期待が高まりました。

「ここから、さらに高い場所へ」

 が決して夢物語ではないと、私は確信しています。

 その「夢」に到達することを誰よりも強く願っているのは羽生本人でしょう。ですから、誰よりも羽生結弦というスケーターのために、これ以上のケガがないこと、「ステイヘルシー」の状態が続くことだけを祈っています。

 

 

 

 

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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