1 スペインから見たポルトガル
サラマンカで暮らしていると、ポルトガルは不思議な存在感のある場所に思えてくる。ぼくが滞在中の街サラマンカは、ポルトガルとスペインの国境に近く、スペイン国内では北西に位置する。このあたりの気候は乾燥しているが、国境の先ポルトガルには緑や湿気があり、どこかしら向こうのほうが資源に恵まれているような感じがする。サラマンカから一番近い海水浴場も、北のガリシア地方や南のアンダルシア地方といったスペイン国内の海岸地帯ではなく、ポルトガルの大西洋に面した街アベイロにあると聞く。
とはいえ、当のスペイン人にとっては、ポルトガルが「存在感のない」場所として捉えられていることも面白い。例えば、サラマンカではぼくは一度もポルトガル人に出会ったことはなく、知り合いのスペイン人と話してもポルトガルのことはほとんど話題に上らない。わざとポルトガルを相手にしていないかのように振る舞っているのだろうか、などと勘繰りたくなるほど、興味がなさそうなのだ。その分ぼくの中ではかえって存在感が増していく。
6月に行った旅行は、スペイン語学校で出会った中国人の学生Fに誘われたのがきっかけだった。行き先は、港の街ポルト。ポルトガル国内では、リスボンにつぐ第二の都市である。このポルトは、内陸でつい1年ほど前まで広場に独裁者フランコのレリーフがあったような保守的なサラマンカとは違い、海に面し人の出入りが感じられる開放的な街だった。
30歳を目前にして日本の息苦しい雰囲気に堪え兼ね、やむなくスペインへ緊急脱出した飯田朔による、母国から遠く離れた自身の日々を描く不定期連載。問題山積みの両国にあって、スペインに感じる「幾分マシな可能性」とは?
プロフィール
飯田朔
塾講師、文筆家。1989年生まれ、東京出身。2012年、早稲田大学文化構想学部の表象・メディア論系を卒業。在学中に一時大学を登校拒否し、フリーペーパー「吉祥寺ダラダラ日記」を制作、中央線沿線のお店で配布。また他学部の文芸評論家の加藤典洋氏のゼミを聴講、批評の勉強をする。同年、映画美学校の「批評家養成ギブス」(第一期)を修了。2017年まで小さな学習塾で講師を続け、2018年から1年間、スペインのサラマンカの語学学校でスペイン語を勉強してきた。