ニッポン継ぎ人巡礼 第4回

日本の宝「藍色」を守るために。新たな産業として藍染に挑む人たち

甲斐かおり

どんな効率化を進めているか?

「Watanabe’s」の染の工房横には、スクモづくりのための蔵が隣接している。また藍の葉を栽培するための畑も7反、工房周りに借りている。ニンジンの裏作として、春から夏の間に、藍葉を育てる。真夏の暑い時期に葉を収穫したら、冬にかけて葉を発酵させるスクモづくり。それと並行して、年間を通して染めの仕事も行う。

藍葉の栽培からスクモづくりに至るまで、独自の方法で効率化や省力化、質を上げるための試行錯誤を行っている。まず一つ目に、タデアイという植物の品種改良。機械で刈り取りやすく、色素の濃い改良品種を、前出の研究者・吉原さんと共に試験栽培を進めている。うまくいけば新たな品種に切り替えていく予定だ。

藍染に使用しているタデアイ。(撮影/筆者)
収穫後の「Watanabe’s」の畑。タネ採りのために一部のタデアイが残されている。(撮影/筆者)
秋から冬にかけてはニンジンを育てる畑。

二つ目が機械化。これまでは、ビーンハーベスターという大豆用の小型の葉刈り機が使われてきたが、この機械自体もう何年も改良されておらず、量をさばけない。そこで、独自で大型の機械を導入しようと、お茶刈り機や、タバコの葉の収穫機などを試してきた。なかなかうまくいかなかったが、昨年アメリカでトウモロコシの収穫に使われる大型の刈り取り機械を実験したところ、これが使えた。

「この機械を導入すると5倍は栽培面積を広げられます。7~8月の暑い最中に畑一枚を収穫するのに丸2日かかっていたのが20分で終わる。昨今の暑さで、炎天下の畑に居続けられるのはせいぜい20分。それが冷房入りの機械で快適に作業できるようになります(笑)」

これまで使用していた小型のビーンハーベスター。大きい機械は近々導入予定。
大型の機械を格納できる倉庫をつくるために、今の工房の向かいに新たに大きめの工房とスクモづくりのための寝床を建設中だった。(2024年1月時点)

栽培面積が5倍になれば、スクモの生産量も5倍になる。今20俵つくっているスクモが100俵になれば、現在県内で生産されている全スクモの12.5%を占めるようになる。藍師、新居さんの生産量が年約300俵なので、そのインパクトは大きい。(*6)

なぜこれまで、藍の機械の改良が行われてこなかったかといえば理由はシンプルで、メーカーは伝統的な「天然藍」の市場に将来性を感じてこなかったのだ。

三つ目に、刈った葉を乾燥させる方法の改善。伝統技法で「藍粉成し(あいこなし)」と呼ばれる、刈った藍の葉を広げて天日乾燥する工程があるが、葉を床に広げると、上部がすっからかんに空いているので、空間効率が悪い上に、一定時間ごとに裏返して空気を入れるなど手間がかかる。

こうした広いビニールハウスの床に、藍の葉を広げて乾燥させていたが、上の空間が無駄になることと、何度も葉を返さなければならないため手間がかかる。
新たに開発した、藍の葉を乾燥させる機械。中に葉を入れ、ぐるぐる回転させることで乾燥する。こちらは試作品。これを鉄で組み、より幅の、厚みのある形にして電動で動くようになる予定。

そこで、ほかの産業を参考に渡邉さんたちが考案したのが、商店街のおみくじなどでガラガラまわす機械を模した、円筒の中で葉を乾燥させる設備である。これが自動で動けば手間もかからず、混ぜ返す必要もなく、空間効率もずっとよくなる。自分たちが使いやすい効率的な生産をするために機械も開発する。そうした試行錯誤に、メーカーも協力してくれることになった。

(*6)徳島県内の全スクモの生産量は2022年度で45トン、803俵。1俵56kgで計算(徳島県「藍の統計概要」より)

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プロフィール

甲斐かおり

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)

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