ニッポン継ぎ人巡礼 第4回

日本の宝「藍色」を守るために。新たな産業として藍染に挑む人たち

甲斐かおり

沈殿藍を産業化したい

ロジカルに藍の研究を進めて、ある程度の量産ができる産業にしたい。そんな渡邉さんの協力者の一人でもあるのが、前述の「徳島県立農林水産総合技術支援センター」研究員の吉原均さんだ。吉原さん自身、誰に頼まれたわけでもなく、また評価されにくい分野であるにも関わらず、仕事とプライベート両方で藍の研究を20年以上続けてきた、少し変わり者の研究者でもある。

20年以上藍の研究を続けてきた吉原均さん。国内外から藍への関心の高さを日々感じている。ほかの作物に比べて、藍の話を聞かせてほしいと訪ねてくる客が多い。

「Watanabe’s」での試験栽培を経て、やっと形になり始めているのが、前述のタデアイの品種改良だ。吉原さんが手がけた、藍では世界初の人工交配による新品種となる。

今、徳島で広く栽培されている品種「小上粉(こじょうこ)」は匍匐性で、成長すると茎が横に広がるため機械で刈り取るのが難しく、現状では、刈り残しが多く出る。そこで、上に伸びる立ち姿がまっすぐで機械での刈り取りがしやすい「赤茎小千本種(あかくきこせんぼんしゅ)」と、色素の濃い「小上粉」を交配したところ成果が見えた(*7)。

さらに、吉原さんはスクモをつかった天然灰汁建てではない、「沈殿藍」の技法を改良し、従来より不純物の少ない、高品質な沈殿藍の製造方法を開発している。これは布を染める染料としてだけでなく、フローリングや壁などの建材を青く着色する塗料、顔料として民間企業に採用され、すでに実用化されている。

この「沈殿藍」こそが、この先、藍を産業として活用していくひとつの方法ではないかと、吉原さんは話す。

「本気で藍を産業として成長させようと思ったら、スクモによる本藍染だけではもう厳しいと思います。Stony Creek Colorsの染めも沈殿藍で、世の方向性としてはそちらです。これまでタデアイから作る沈殿藍は不純物が多く発色が悪かったので、塗料としては使えませんでした。そこで不純物を効率よく除去する方法を開発し、発色が良く、これまでの10倍近いインディゴ濃度を持つ沈殿藍を作る方法を見出しました」

スクモはタデアイの乾燥葉を発酵させてつくるのに対して、「沈殿藍」は生葉を用いてつくる。生葉を水に浸けて、含まれる成分を溶かし出し、消石灰を加えて激しくかき混ぜると藍の色素ができて沈殿する。これが沈殿藍である。

この一般的な沈殿藍の製法のうち、②の生葉を水につけた抽出液の上澄を除いた濃度の濃い部分のみを使用したのが高品質沈殿藍となる(資料提供:吉原均さん)

だがこれまでの沈殿藍では、藍色を安定して出すことができなかった。それが、吉原さんの開発した方法によって、漆に混ぜて木に塗るなど、従来できなかったことが実現できるようになった。

ほかにも画材やコンクリートの着色など用途は幅広く、タデアイの新たな使い途として、有効だ。

生葉を2日ほど水につける
抽出液に消石灰を入れてエアレーションする
沈殿物を集めて濾した、タデアイからつくった高品質沈殿藍。安定して藍色になる

(*7)明治時代以前にもっとも多く栽培されていたという「青茎小千本種(あおくきこせんぼんしゅ)」はすでにタネが残っていなかったため、「赤茎小千本」を用いた。葉は小さくても色素の含有量が多い方がいいスクモができる。

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プロフィール

甲斐かおり

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)

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