データに基いて、ロジカルに藍を研究する必要性
さらにこの先、日本の藍が海外に進出するには、データ化とエビデンスの記録が必要だと渡邉さんは考えている。
日本には、同じ発酵を用いた産業で、データ化から飛躍的な品質向上を遂げ、海外進出に成功した前例がある。“日本酒”だ。日本酒業界では、蔵同士が協力しあって研究を積み重ね、相乗的に品質を上げてきた歴史がある。
「発酵や変化の様子が数値化されているから、甘い辛いや酒母の状態をロジカルに説明できます。しっかりしたエビデンスがあるので、海外でも、ワインと肩を並べて勝負できる。阿波藍もモノはいいけど、ロジックが足りない。これから世界に打って出るにはエビデンスが必要だと思っています」
染めは、菌の働きによる発酵作用を生かして行うため、人が100%コントロールできない。だからこそ、少しでも成功率を上げるために、データの蓄積が欠かせないということだ。「Watanabe’s」では、スクモづくり、その後の染めの工程も、逐一記録している。
伝統文化として保護されながらも、産業としては廃れていく一方だと思っていた本藍染を「この先、可能性のある仕事だ」として人生をかけている人がいる。そのこと自体が驚きだった。
渡邉さん自身が、海外から藍への注目度が高まっていることを、日々肌感として感じている。「Watanabe’s」のようなスクモのメーカーが増えれば、天然藍染めがふたたび広がる一つの道筋になるのではないかと思えた。
プロフィール
フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)