ニッポン継ぎ人巡礼 第4回

日本の宝「藍色」を守るために。新たな産業として藍染に挑む人たち

甲斐かおり

やっと始まった、新しく若い人を入れる試み

ところがここへきてやっと、“伝統”の領域の内側と外側を行き来し、新しいスタイルの藍づくりを志す人たちが、現れ始めた。

その一人が藍工房「Watanabe’s」の渡邉さんだ。5軒の藍師のうちの一人、新居さんのもとで修行したのち、藍葉の栽培からスクモづくり、そして染めまでを自社工房で行っている。藍師と染師のハイブリッドである。

毎年2トン近くのスクモをつくりながら、いわゆる藍染の個人作家とは違い、従来の染工場並みの量、100〜1000枚の単位で染めの仕事を請け負う。一部オリジナルの製品もつくっているが、仕事の大半は、アパレルメーカーなどからの染色の依頼だ。

藍の葉の栽培、スクモづくり、そして染めと、これまで分業で行われてきた三つの仕事を一貫して行っている。そう決めたのはなぜなのか。

「スクモが手に入りにくいので自分でつくり始めたこともありますが、藍染で勝負するには、染めの良し悪しを決めるのは、スクモの品質だと気付いたからです。スクモの品質は、藍の葉の質で決まる。結局、植物の力で染めているので、葉っぱの質を上げないといい染めができないんですよ」

Watanabe’sでのスクモづくりの様子。11月〜翌年の2月頃までかけて、藍の葉を発酵させてスクモをつくる。
週に一度は切り返しの作業。水をうち、葉を上下入れ替えて発酵を促す。スクモの内部は発酵の熱であたたかい。
切り返しの作業が終わると、ムシロで覆う。

徳島県内でも、上板町は昔から藍葉生産の盛んな地域である。さすがに藍師の後継者不足を危惧した町では、2012年から地域おこし協力隊の制度を利用して、藍の仕事の継承者を募集し始めた。

渡邉さんは、この第一期生。東京でサラリーマンをしていたが、藍染と出会い、藍の仕事をしたくて徳島を訪れた。協力隊を卒業後も上板町に残り、同期の楮覚郎(かじかくお)さんとともに藍工房「BUAISOU」を始めた後、2019年に独立して「Watanabe’s」を立ち上げた。2024年の今年、藍に関わって12年目になる。

藍師と染師の両方を手がける点では、楮さんが率いる「BUAISOU」も同じだが、「BUAISOU」が世界のファッションブランドとコラボレーションして、天然藍の存在感を高めようとしているのに対して、渡邉さんは、藍の葉の栽培から力を入れ、量産できる業界に変革して広く普及させることをめざしている。

「藍の仕事を伝統と言っている限りは、産業としては広まらない」と渡邉さんはきっぱり言う。

スクモの「量」を確保するので精一杯な現状が続く限り、質を上げる話にはならないということだ。

「慢性的にスクモが足りないので、仮に品質が悪くても買うしかない。でも、よりいい染めをしたい人が、より質のいいスクモを選べる状況になるのが理想です。全体の染めの品質を上げるには、藍師が切磋琢磨してスクモの質が上がる、それが目指すべき世界だと思うんです」

藍工房「Watanabe’s」代表の渡邉健太さん。
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プロフィール

甲斐かおり

フリーライター。長崎県生まれ。会社員を経て、2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で昔の日本の暮らしや大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを雑誌やウェブに寄稿している。Yahoo!ニュース個人「小さな単位から始める、新しいローカル」。ダイヤモンド・オンライン「地方で生きる、ニューノーマルな暮らし方」。主な著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス・2019年)『暮らしをつくる~ものづくり作家に学ぶ、これからの生き方』(技術評論社・2017年)

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