シングルマザー、その後 第5回

モラハラ夫は離婚後、調停マニアと化した

黒川祥子

夫はモラハラ加害者

 

「モラハラ」という言葉を耳にした時、尚美さんの中で何かが引っかかった。ちょっと調べてみようと、何気なく、パソコンで「モラハラ」と検索をかけた瞬間、衝撃が走った。

「あっ、これも、これも、これも、全部、夫のことだ。夫のことが書いてある……」

 モラルハラスメントとは、殴る蹴るという身体的暴力ではなく、言葉や態度で人を傷つける精神への暴力だ。加害者は自己中心的で、自分の非を認めず、独自ルールがあり、思いやりも共感性もなく、数週間以上続く無視や蔑視などで、相手を精神的に追い込み、精神をボロボロにしてしまう。非常に危険な暴力だ。被害者は大抵、自分が悪いと思い込まされ、加害者に怯え、逃げようにも逃げることができなくなっている。

 平成29年度の司法統計によれば、女性の離婚申し立ての動機の3位に、「精神的に虐待する」がある。1位は「性格が合わない」、2位は「生活費を渡さない」となっているが、「生活費を渡さない」も十分に、モラハラの範疇に括られるものだ。お金を使って、妻を困らせ、束縛するものだからだ。

Ushico / PIXTA(ピクスタ)

 尚美さんは結婚生活8年間の「モヤモヤ」に、理由があることをようやく知った。決して、自分が悪かったわけではないのだ。

「モラハラは直らない、家を出ないといけない、調停で離婚をしないといけないと、どのサイトにも書いてありました。協議離婚はほぼ、無理だからと。猛獣と一緒に住んでいるようなもの、という表現もありました。子どもへの影響も良くないとは、思いもしないことでした。お母さんが罵られたり、バカにされたりするのを子どもに見せるのは、虐待に当たると……」

 尚美さんはようやく、自分は人としての尊厳を奪われるほど、夫から理不尽なことをされてきたことを知った。猛獣と一緒に住んでいる……、まさに、これまでのすべてがそうだった。知ってしまった以上、もはや恐怖でしかない。

 話し合いが不可能なのは、これまでの暮らしで思い知らされている。尚美さんは子ども二人を連れ、家を出て、実家で暮らすことにした。二度と、夫の元に戻るつもりはなかった。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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モラハラ夫は離婚後、調停マニアと化した