シングルマザー、その後 第5回

モラハラ夫は離婚後、調停マニアと化した

黒川祥子

コロナ後を生きる

 

 次男は中3の冬に、ネット依存外来がある久里浜医療センターで診察を受けたことをきっかけに、「このままではよくない」と、自ら気づいた。頑なに診察を拒否する次男を、尚美さんが苦労して診察室に連れて行ったことで光が見えたのだ。

 取材から半年あまり、コロナ後の暮らしをメールで尋ねた。

「二人とも進学したものの、コロナで足止めに遭い、生活リズムを崩しています」

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

 長男は私立大学の農学部に進学、心配していた次男は自分の意思で、不登校の子たちが通う、私立高校のエンカレッジコースを受験し、合格した。

 どうやら、尚美さん一家にとって最悪の事態は脱したようだ。正社員ゆえ、尚美さんにはコロナによる経済困窮はない。では、尚美さんの未来は安泰なのだろうか。

「65歳まで働きますが、二人の教育費用にこれからどれだけ、かかるのか。長男は私立の理系なので、とんでもなく授業料が高いです。悠々自適な老後って、全く思い浮かびません。持ち家と言ったって築36年、修繕費用もかかるでしょうし、この子たちが自立できずに、ずっとぶらさがられたらと思うと……」

 そんな矢先にやってくるのが、調停だ。取材の最後に、尚美さんは涙声で訴えた。

「頑張っても、頑張っても、普通ならラクになっていくはずなのに、もう全然、ラクにならない。何か、私がやってきた生き方が間違っていたのではと思うくらい」

 正社員で貯蓄も持ち家もある尚美さんの、これが痛切な思いなのだ。まさに、この国のシングルマザーの未来は八方塞がりではないか。

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シングルマザー、その後

「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。

プロフィール

黒川祥子

東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)ほか。息子2人をもつシングルマザー。

 

 
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