コロナ後を生きる
次男は中3の冬に、ネット依存外来がある久里浜医療センターで診察を受けたことをきっかけに、「このままではよくない」と、自ら気づいた。頑なに診察を拒否する次男を、尚美さんが苦労して診察室に連れて行ったことで光が見えたのだ。
取材から半年あまり、コロナ後の暮らしをメールで尋ねた。
「二人とも進学したものの、コロナで足止めに遭い、生活リズムを崩しています」
長男は私立大学の農学部に進学、心配していた次男は自分の意思で、不登校の子たちが通う、私立高校のエンカレッジコースを受験し、合格した。
どうやら、尚美さん一家にとって最悪の事態は脱したようだ。正社員ゆえ、尚美さんにはコロナによる経済困窮はない。では、尚美さんの未来は安泰なのだろうか。
「65歳まで働きますが、二人の教育費用にこれからどれだけ、かかるのか。長男は私立の理系なので、とんでもなく授業料が高いです。悠々自適な老後って、全く思い浮かびません。持ち家と言ったって築36年、修繕費用もかかるでしょうし、この子たちが自立できずに、ずっとぶらさがられたらと思うと……」
そんな矢先にやってくるのが、調停だ。取材の最後に、尚美さんは涙声で訴えた。
「頑張っても、頑張っても、普通ならラクになっていくはずなのに、もう全然、ラクにならない。何か、私がやってきた生き方が間違っていたのではと思うくらい」
正社員で貯蓄も持ち家もある尚美さんの、これが痛切な思いなのだ。まさに、この国のシングルマザーの未来は八方塞がりではないか。
「母子家庭」という言葉に、どんなイメージを持つだろうか。シングルマザーが子育てを終えたあとのことにまで思いを致す読者は、必ずしも多くないのではないか。本連載では、シングルマザーを経験した女性たちがたどった様々な道程を、ノンフィクションライターの黒川祥子が紹介する。彼女たちの姿から見えてくる、この国の姿とは。