◆マッテオ・リッツォ(ショート5位)
冒頭の4回転トウの完璧な着氷姿勢と、着氷後のエッジの流れで、一気に会場をつかみました。トリプルアクセルも、トリプルルッツからのコンビネーションジャプも申し分のない出来。
ひとつひとつの所作が本当に美しい選手だなあと思います。スケーティングの勢いをアームの動きでも作っている様子なのは確かに見えますが、この美しい所作はそれをカバーしてあまりあるものだと感じます。
得点が出た瞬間、コーチともども笑顔がはじけ、それを見ているこちらも幸せな気分になりました。
◆宇野昌磨(ショート6位)
私は、宇野昌磨のニュアンスに満ちたスケーティングも大好きです。そしてこれは、ネイサン・チェンに対する感想とリンクする部分があるのですが、
「もしかしたら宇野昌磨にいちばん必要なのは、ピーキングに対する、ある種の腹のくくり方かもしれない」
と、私は演技後に感じていました。
過去に何度か書いていますが、宇野昌磨は「周りの誰よりも厳しく、自分自身を追い込む、超努力型のスケーター」のひとりであると思います。
もちろんそれは美徳の中の美徳ですし、その姿勢こそが宇野昌磨を世界のトップ選手にした大きな要因であるのはわかっています。
ただ、シーズンの序盤から一瞬の気のゆるみもなく全力疾走を続ける宇野昌磨のスタイルは、体力的にも精神的にも「いばらの道」すぎるのでは……とも思うのです。
琴を長いことやっている友人によると、琴の弦は、演奏をしないとき、演奏時のピンと張った状態のままにしておくのは、いけないことだそうです。いざという時のために、ゆるめるときはゆるめる。それは超努力型の選手にとって、もしかしたらいちばん難しいことかもしれない。しかし私は、(宇野昌磨に限らないのですが)大きな大会の演技後に、会心の笑顔とともにガッツポーズを作る選手たちの姿を、心から待ち望んでいるのです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。