画面のユアン・マクレガー演じる大人のロビンが、観客の男の子に叱られているのは、何かこの映画を象徴している気がする。
この映画は、子ども向けのキャラクター映画なのに、なぜか残業や休日出勤、有給休暇など労働問題のテーマが盛り込まれているのが面白い。
ぼくは、高校生のときから、日本ではうまく働けない、という実感があり、スペインへ行くまでは、実家に住みながら時々塾講師をしたりして、日々だましだまし東京で暮らしてきた。
日本を脱出してスペインへ行った理由のひとつとしては、今の日本の職場が一般的にあまりにも働く時間が長く、給料が安いと思えたことがある。
『大人になった僕』は、まるで今の日本人に向けて作られた映画のような気さえした。
それから数か月が経ち、留学生活は終わり、昨年の1月にぼくは日本に帰国し、東京の実家に戻った。
戻ってから間もないときに、今度は、Twitterで評判を聞き気になっていたもうひとつの映画、これまたクマのキャラクターが出てくる実写映画『パディントン』(2014)を見た。実家の家族や友人などの間でなぜか前年公開されていた『パディントン2』(2017)が大好評で、ぼくもAmazon Prime Videoを使い、実家のテレビで『パディントン』と『パディントン2』を見てみた。
これまた、たしかに面白い…。『パディントン』(以下ことわりのない場合1作目と2作目を合わせて『パディントン』と表記する)は、ペルーからロンドンへ「移民」として渡ってくる若いクマの物語で、現実のEUの難民危機や差別の問題が反映されたテーマが扱われ、こちらもなぜかキャラクターものに社会派的な要素が入っている。前年スペインで現地の習慣がよく分からず、右往左往したときの自分を思い出したりした。
『大人になった僕』と『パディントン』は別々の映画だけど、何かあるぞ、と思えた。どちらも「クマ」と「社会問題」という組み合わせが意表をついて面白いし、キャラクター映画としても、クマたちが妙に「いきいき」していることに新しさを感じた。
日本で働けず、スペインへ一度逃げ出したぼくにとっては、このふたつの映画は、やけに切実なものがあり、また、いまの日本の社会や世界の問題について考えるにあたって、手がかりをくれる作品とも思えた。
30歳を目前にして、やむなくスペインへ緊急脱出した若き文筆家は、帰国後、いわゆる肩書きや所属を持たない「なんでもない」人になった……。何者でもない視点だからこそ捉えられた映画や小説の姿を描く「『無職』の窓から世界を見る」、そして、物書きだった祖父の書庫で探索した「忘れられかけた」本や雑誌から世の中を見つめ直す「“祖父の書庫”探検記」。二本立ての新たな「はしっこ世界論」が幕を開ける。