特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第12回

『羽生結弦は捧げていく』高山真が振り返る2019年世界選手権(フリー編)

高山真
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 拙著『羽生結弦は捧げていく』で、私はこのネイサンのフリーを「前シーズンのショートプログラム『ネメシス』に続く傑作になりそうな予感がする」と書きました。

 羽生結弦が「プログラム全編がコレオシークエンスでできている」と言いたくなるほどのエッジワークを駆使してプログラムを構成しているのに対し、ネイサン・チェンは「超高難度のジャンプをきっちり決めるために、助走するべきところはしている」……そんな印象はたしかにあります。しかし、その助走も、前シーズンと比較したらもちろんのこと、シーズン序盤とくらべても明らかに少なくなっていたように感じられました。

 加えて、ネイサンの端正なスケーティングと、現役選手の中でバレエをもっとも厳密に体に叩き込んでいるのがわかる上半身のムーブメントの融合!

「スケートだからできる動き」を、「バレエの基礎を叩き込んだ素晴らしいダンサーが魅せる」という、ある種の理想形がありました。コレオシークエンスからあふれ出るパッション、ドラマティックさは、何度見ても感嘆のため息しか出てきません。

 ショートプログラムに続きフリーもこのシーズンのベストスコアを、最も大切な大会である世界選手権でそろえてきたネイサン・チェン、見事な金メダルでした。

 

◆ヴィンセント・ジョウ(総合3位)

 4回転ルッツの使い手としてジュニア時代から有名だったヴィンセント・ジョウ。ただ、昨シーズンまでは、プログラムの中に明らかに回転不足だと感じられるジャンプが散見されていたのも事実です。

 そんなジャンプがこのシーズンでは本当に少なくなったと感じています。特にフリーの冒頭の4回転ルッツとトリプルトウのコンビネーションジャンプは、どちらのジャンプも着氷する前に空中で回転がきっちり終わっていることが判断できるほど、素晴らしい高さがありました。率直に言って2017-18年シーズンとは別人のようなクオリティになっていて、本当に驚きました。

 それまでのシーズンベストを15点近く更新する、見事な演技でした。

 映画『グリーン・デスティニー』のサウンドトラックを使ったフリーの曲は、アジア系アメリカ人のジョウによくマッチしています。私個人としては、このフリーをさらに磨いたスケーティングと深めた解釈で見てみたい。

 個人的な願望ではありますが、

「来シーズンに持ち越すか、冬季北京オリンピックのシーズンにもう一度使用してもいいかも……」

 とも思っています。

 実際、世界選手権のあとに開催された国別対抗戦(Vincent Zhou 2019 Team World Cup FS)では、世界選手権よりもう一段二段、音楽との調和に感じ入るものがありました。これは「スケーティングの質にしろ、演技全体の成熟度にしろ、何かの『きっかけ』をつかめば、まだ伸びしろがたっぷりある選手」という意味でもあります。今後がますます楽しみになりました。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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『羽生結弦は捧げていく』高山真が振り返る2019年世界選手権(フリー編)