特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第15回

羽生結弦のオータムクラシックに感じた「伸びしろ」とは

高山真
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〇ステップシークエンスは要素の実施順に記述しています。

 

  • 冒頭のツイズル(反時計回り)のシャープさはもちろんですが、その直後、今度は羽生にとってナチュラルな回転方向ではない、時計回りの方向に回転しながら、右足で進んでいく、その距離の長さ、なめらかさ、フォアとバックのエッジの切り替えのスムーズさ。

 この「エッジを切り替えた後でも、スッとスケーティングが伸びていく」選手のスケーティングを見るのが私は大好きです。厳密なエッジの切り替えと、その際の体重移動がしっかりおこなえているからこそ可能なスケーティング。

 その際、男子のシングルスケーターは「自分の筋力や体重そのものをいかした、重厚感とスピードを両立させたスケーティング」になるのが王道だと思います(それを極限まで高めて見せてくれていたのは、パトリック・チャンでしょう)。

 対して羽生結弦の場合は

「体重移動をきっちりしているはずなのに(そうでなければあのスピードは出ません)、本来あるはずの体重をまるで感じさせない」

 というイメージ。私はパトリック・チャンも羽生結弦も本当に好きなスケーターですが、このふたりは、

「滑りそのものに技術が詰まっていて、個性が爆発している」

 と感じています。

  • ハイドロブレーディングから、ダイレクトに「アクセルジャンプとバレエジャンプを融合させた」ような印象的なジャンプへ。

 ハイドロブレーディング自体、ステップからただちに入っているので、「ステップ→ムーヴズ・イン・ザ・フィールド→バレエジャンプ」という、異なった要素を「ひとつなぎ」で見られる喜びがあります。

  • リンクの端で時計回りのシャープなターン。そこからリンク中央へ戻りながら、片足のフォアとバックを美しく切り替えていくエッジワークを見せ、反時計回りのシャープなターンで幕を引く。そんな美しいプログラムデザインにも目を奪われます。

 

〇足替えのコンビネーションスピン。個人的には、特にキャメルポジションとパンケーキポジションにおける、アームの形の変化と音楽の同調性、そして最後まで落ちないスピードが本当に見事だと思います。

 

 前シーズンから思っていることですが、このプログラムは、

「テクニカルエレメンツの採点対象であるジャンプ、ステップ、スピンを、どのようにつないでいくか」

 というよりは、

「フィギュアスケートの基本である『氷の上に図形(フィギュア)を描く』ことを極限まで突き詰めたうえで、どのようにジャンプ、ステップ、スピンを配置していくか」

 ということに真正面から取り組んでいるプログラムだと思います。エレガントなのに、凄絶なほどの技術と体力を要求される。そんな二律相反も、羽生の魅力と言えるかもしれません。

 そんなプログラム中でひとつ、個人的に「前シーズンともっとも変えてきている」と思ったのは、コンビネーションジャンプ前の、リンク長辺を往復するようなトランジションでした。往復の「復」の部分で、どれだけスピードを出せるか、そのスピードを利用した、ジャンプの大きさをどれだけ出せるか……。そのことに非常に注力している印象を受けました。

次ページ  指先の形まで残像となって残るような激しいアームの動き
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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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