■フリー
プログラムは、前シーズンに引き続き『Origin』。
あくまでの私の推測ですが、
「羽生結弦の場合、『ひとつのプログラムを究極のところまで完成させたい』という希望はもちろんのこと、また別の狙いも持っているのではないか」
と感じる部分もあります。
「同じ曲を使い、表現を深めていく中で、『新しくブラシュアップされた表現が、どのように評価されるのか。どのように点数に反映されるのか』を、シーズンを通して感じ取っていきたい……。そう思っているのかもしれない」
と感じてもいます。
この連載の第13回で、私は、「ファンタジー・オン・アイス」での羽生結弦の非常にダイナミックで情熱的な上半身のダンスを見て、
「このシーズンで羽生結弦が掲げているテーマは、『ジャンプの難度のアップ』と同時に『ジャプの難度を上げるため、ほんのわずかながら少なくせざるを得ないトランジションをカバーする方策として、上半身のダンスの要素を増やしていくこと』なのかもしれない」
と綴りました。
そのことを踏まえながら、要素の実施順に感嘆した部分を書いていこうと思います。
〇4回転ル―プ。跳ぶ前にイーグルを入れてきているのは新しい要素だと思います。また、ジャンプそのものはステップアウトしましたが、目を見張ったのはそのあと、ジャンプ後のトランジションです。
前シーズンは「イーグルから、ひざを曲げるイーグル(ベスティスクワットイーグル)へと移行する」という形でしたが、今シーズンは「ベスティスクワットイーグルからベスティスクワットイーグルへ」というものでした。どちらのシーズンも、
「その移行の間、両足はしっかり氷をとらえたままで、『両足それぞれにかかっている体重のバランスを変えることだけでスピードを得て、エレメンツをつなげる』のを実行している」
という点は同じです。ここは私が本当に大好きな箇所なのですが、今シーズンのベスティスクワットイーグルにおけるアームの表現が、一気に激しくなったのを感じたのです。「指先まで張りつめた力が、遠くからでも見える」と言いますか……。
私は基本的にフィギュアスケートを鑑賞するとき、「選手のひざから下、主に足元がどんなふうに動いているか」ということに意識の8~9割を集中させるクセがついてしまっていますが、それでも、この「指先の形まで残像となって残るような激しいアームの動き」は強い印象を残しました。
「羽生結弦は、ここまでの結果を残した後でも、『何か』を変えようとし、『どこか』もっと高いところに上ろうとしている」
と感じたのです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。