「それから」の大阪 第29回

「大阪・関西万博」見物記

スズキナオ

 2025年4月13日(日)、大阪市此花区・夢洲ゆめしまを会場にした国際博覧会、大阪・関西万博が始まった。

 開催までには様々な問題が取り沙汰されてきた。一つは会場建設費についてである。2018年、誘致決定時の会場建設費は1250億円と試算されていたが、それが2020年12月には1850億円に、2023年11月には2350億円に増額されることになり、当初の予算の倍近くまで膨らんだ。

 また、工事の大幅な遅れも各種メディアの間で度々取り上げられてきた。円安やウクライナ情勢などを受けて建設資材が高騰したことに加え、建設業界の人材不足や時間外労働の上限規制が2024年4月から厳格化されたこと、会場である人工島・夢洲へのアクセスの困難さなど複数の原因が重なり、建設会社がパビリオン建設の受注に消極的になったことも影響したという。

 その影響は海外パビリオンの建設にも波及し、当初は60か国が「タイプA」と呼ばれる、各国が自ら費用を負担して設計・建設する大規模スタイルのパビリオンで参加する予定だったのが、最終的には47か国へと減少し、万博協会が建設を代行する簡易型のパビリオンとして新たに提案した「タイプX」へ移行するなど、大幅な変更を余儀なくされた。建設費用や工事スケジュールが理由のすべてとは限らないが、開催決定当初は参加を表明していたものの、後になって撤退を決定した国は12か国に上った。

 また、2024年3月には会場内で発生したメタンガスに起因する爆発事故があり、開催地に夢洲という土地を選んだために生じたリスクとして取り上げられた。夢洲は1977年から産業廃棄物や汚泥の処分場として利用されてきた埋め立て地であり、宿命的に地中から絶えずメタンガスが発生する。万博を運営する公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、万博協会と記載する)は、この事故を受け、建設物の地下に送風機を設置してガスを排気する、メタンガス濃度の測定を強化するなどの対策を講じるとした(しかし、2025年4月上旬に実施された万博のプレオープンイベントである“テストラン”の際に、安全基準値を超える濃度のメタンガスが検知され、以降も会場内で基準値を超えた箇所があったと万博協会から報告された)。

 これら、大阪・関西万博開催までに露呈した問題点やそもそもの計画の欠陥もあり、万博協会が開催に向けて行おうとした機運醸成は予定通りにいかなかったのだろう。前売りチケットが開催前に掲げられた目標数に届いていないという報道もたびたび目にした。これにもまた様々な理由が絡み合っており、オンラインで購入する電子チケットを主軸にしたために購入者の層が限定されたこと、パビリオンの建設遅れもあり、肝心の万博の内容が開催直前になるまで明らかになってこなかったことなどが影響したと思われる。

 筆者は、期間限定のメガイベントに巨額の予算が投入されることに懐疑的な思いを持っている。大阪に住み、ライターとして街の様子を見て歩く自分の視野には、大阪にはまとまった予算を費やして今すぐ改善したりケアしたりすべきものが多くあるように映る。また、大阪・関西万博が開催されるにしても、その意義や内容や、予算の使われ方について十分な議論がなされないまま計画が進められていったという印象を受ける。夢洲で万博を開催するのは、その先にある、日本初のカジノを含むIR(統合型リゾート)の開業を見越してのことで、万博を口実にすればインフラ開発への投資がしやすいという理由も大きいと、そんな裏事情も垣間見え、大阪が向かおうとしている未来がまさに巨大で無謀なギャンブルのようにも思え、不安な気持ちになる。

 と、そんな立場から、開催に至るまでの日々を自分なりに見てきた。前述の通り、万博協会による開催前の機運醸成がうまくいっていたとは思えず、開催から一年ほど前までは、大阪・関西万博の公式キャラクターである「ミャクミャク」を大阪の街で見かける機会もそれほどなかったように記憶している。

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プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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