「それから」の大阪 第29回

「大阪・関西万博」見物記

スズキナオ

ふわふわしたことしか伝わってこない(2023~24年秋)

 2023年4月、私は大阪・梅田の阪神百貨店で開催された「昭和レトロ博」という、アンティーク雑貨を扱うショップなどが集まるフェアを見に行った。すると会場の一角に「1970年 大阪万博グッズ展示」というコーナーが設けてあり、太陽の塔を象った当時のグッズなどと並んで「ミャクミャク」グッズが飾られていた。1970年に開催された日本万国博覧会に絡め、2025年の大阪・関西万博についての情報を周知しようという試みらしい。「これからはこのような場も万博のPRに活用されていくのだな」と感じたのを覚えている。

百貨店の一角に設けられていた大阪・関西万博のPRコーナー(2023年4月撮影)

 そこには「EXPO2025まであと2年!」と大書されたパネルが飾ってあり「何が楽しい?」という項目の下に「様々な未来技術や様々な文化との出会いにワクワクします。世界各国の出会い、文化・食事・その国の人と出会い、それらが融合した日常では味わえないこの場の雰囲気に感動します」と書かれていた。

 また、たとえば「万博の楽しみ方」というパネルには、「万博には大きな希望と夢を与えてくれるものが有ります。終わってから気づいても遅い。早くにその魅力を実感してほしい。開催前から取り組むと更に楽しさは倍増。万博はもう始まっている気持ちに。」と書かれている。

「万博の楽しみ方」を説明するパネルの内容は薄かった(2023年4月撮影)

 この空虚な感じ。何かふわふわしたことしか言ってない感じが印象的だった。その場にあった大阪・関西万博関連の掲示物は全部がその調子で、これがオフィシャルなメッセージだとしたら、なんとも雑な感じがした。

 2023年12月になると、いつも利用するJR大阪環状線の駅ホームに大阪・関西万博のラッピング車輛が現れ、「やっぱり本当に開催されるんだな」とぼんやり思った。

2023年末になると、普段筆者が利用するJR駅でも万博ラッピング車輛を見かけるようになった(2023年12月撮影)

 2024年になってしばらく経っても大阪の街の様子は特に変わらず、普通に生活していて万博の会期が近づいていることを意識する機会はほとんどなかった。もちろん、会場内での建設は少しずつでも進んでいたわけで、そこで働く人や何らかの形でこの大きなプロジェクトに関わる方々にとっては日々直面する課題があったと思うが、その様子が大阪の市街地まで伝わってくることはあまりなかったと思う。

 2024年6月になると、会場のシンボルとなる巨大な建造物として、中身のよくわからない万博の中でも唯一先行的に情報の出ていた「大屋根リング」の建築がかなり進んだとのことで、一般参加者も招いての見学ツアーが開催されるようになった。見学ツアーは、大阪府、大阪市が主催し、6月から10月にかけて合計6回の日程で開催され、一日に3回、各回に25名が参加できるとのことだった。そこに行って様子を見れば、後日文章にできることもあるかもしれないと、私も何度か応募してみたのだが、参加できる人数が少ないこともあってか、結局一度も参加権を得ることはできなかった。

 その後も、様々な形で見学会などが開催されるという情報を見かけるたびに応募してみるのだが、日頃の行いのせいか、どれも当選することはなかった。唯一当たったのが、2024年10月13日に大阪府吹田市・万博記念公園(1970年万博が開催された跡地にある公園)で開催された「万博開幕6か月前イベント」の“前方優先観覧エリア”に入れる権利だ。そもそも入場が無料のイベントなので、落選しても参加することはできたのだが……。

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 第28回
「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

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プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

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