開幕前の『テストラン」を展望台から眺める(2025年4月)
開幕を一週間後に控えた2025年4月4日から6日までの3日間、大阪・関西万博の会場で、運営試験を兼ねた「テストラン」が行われることになった。初日の4日は参加国や出展企業の関係者に限定して約1万人を、残りの2日間は一般から公募した参加者を、5日は3万人、6日には5万人招いて実施するという。例のごとく、私は応募したものの落選したのだが、せめて会場の様子を離れた場所から見ておこうと「さきしまコスモタワー展望台」に登ってみることにした。思えば2020年、当連載の第2回(集英社新書『「それから」の大阪』所収)で訪れて以来である。
「さきしまコスモタワー展望台」は大阪府咲洲庁舎の最上階にある展望スペースで、大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅近くにある。ちなみにコスモスクエア駅の一駅隣は万博会場の最寄り駅である「夢洲駅」で、万博に向けて中央線の延伸工事が実施され、2025年1月19日に開業したものである。鉄道で万博会場にアクセスするのにはこの夢洲駅を利用するしかないため、会期中は相当な人数が利用することが予想される。
私が降りたコスモスクエア駅には同じデザインのTシャツを着た様々な年齢層の方が列を作っていて、後で調べたところ、大屋根リングの上で様々な国と地域から参加した400人が一斉にキャッチボールをする「世界キャッチボールプロジェクト」に参加した人々だったようだ。プロジェクト終了後、再集合したところだったのかもしれない。
駅から大阪府咲洲庁舎へと歩く。駅の近くには「大阪出入国在留管理局」があり、大阪に住む在留外国人が必要な手続きをしにここに来る。そのすぐ隣駅まで行けば多様性を謳う大阪・関西万博の会場があるというのは、皮肉な感じがする。

駅を離れると、途端に人もまばらになり、大阪府咲洲庁舎の1階ロビーも空いていた。展望台の料金1000円を支払ってエレベーターに乗り込む。最上階に着くと、天気がいいこともあって視界は良好だった。万博会場が見え、大屋根リングの形もはっきりとわかる。

望遠レンズ付きのカメラをなぜ持ってこなかったのかと後悔しつつ、スマホのカメラで撮れるだけの写真を撮って、望遠鏡をのぞいてみる。たくさんの人が歩いている姿が見え、本当に今、あそこにいるんだなと思う。特徴的な形をしたパビリオンも見える。

時計を見ると15時近く、今日のテストランは14時までだと発表されていたから、今からなら夢洲駅まで行ってもそれほど混雑してないだろうと思った。せっかくここまで来たし、もう一駅先まで行ってみよう。
再び地下鉄に乗る。コスモスクエア駅から夢洲駅までは5分ほどかかり、少し長く感じる。夢洲駅まで向かう電車に乗っている人は予想外に多く、テストラン終了後も関係者向けのイベントなどがあるのかもしれないと思った。
ホームに降りてみると、さすがに新しい駅だけあって綺麗な印象だった。構内の壁の大きなモニター、改札を出てすぐの「ローソン」の前に立つロボットに、なんとなく万博らしさを感じる。
テストランに参加する権利はないので、改札を出たところで、私が歩ける範囲は会場入り口前のスペースに限られていた。入場パスを持った人が出入りする入り口を眺め、その反対の、参加国の国旗がはためくエリアを少しだけ歩く。

広大な埋め立て地なので当然だが、日差しを遮るものはなく、真夏にここに長い行列ができたら大変だろうなと思う。裏手の方でタバコを吸っている一団がいて、警備の目が届かない場所もたくさんあるかもしれないなと思った。

改札を出てすぐのローソンで缶ビールを買い、通行の邪魔にならなそうな日陰で飲んでいると、様々な声が聞こえてくる。「全部のパビリオンが開くのは5月の連休の後やって」と、開幕には確実に間に合わなそうなパビリオンが複数あるらしい。人の会話は誰も止めることができないから、現場の近くにいれば、生々しい内情が伝わってくる。

飲み終えて再び改札内へ。構内に一か所だけあるトイレに寄ると、一日に何万人と利用することが想定されている駅なのに、思いのほか便器の数が少ないことに驚く。万博会場内にはたくさんのトイレがあるらしいが、何かのタイミングで駅構内が大混雑するようなことがあったらどうなるだろうかと思う。
3日間のテストランでは、限定した入場者数にもかかわらず、長蛇の入場列ができたり、パビリオンの予約や入場、キャッシュレス決済にも必要な電波環境が不十分であることが明らかになったり、先述した通り、メタンガスの濃度が基準値を超える箇所が発見されたり、色々な課題が露わになった。自分が参加できなかったこともあり、テストラン参加者の投稿をSNSで検索してよく見ていたのだが、問題点を指摘する声に対し、「つまらないことを言うな」と反発する声が一気に増えたように思えた。
希望にあふれた未来を感じられる万博にケチをつけるのは、偏ったメッセージ性を持つ人々の「ネガキャン(ネガティブキャンペーン)」であり、そういう“アンチ万博”な人は、お祭りを素直に楽しめない不憫な存在なのだと、そんな方向性を持つ投稿を多く目にするようになった。そしてまた、その声に反発するように、万博を称賛する人々を激しい言葉で罵倒する投稿も目立つようになってきた。あくまで個人的な範囲で目にしたものへの印象ではあるが。
とにかく一度、会場に行ってみたい。
万博の入場チケットにはいくつかの種類があり、開幕直後の4月13日から4月26日まで利用できる「開幕券」なら大人4,000円で入場できるようだ。「まあ、そのぐらいの値段なら」と、開幕前日まで購入可能だというそのチケットを買ってみることにした。公式のチケット購入サイトである「EXPO2025デジタルチケット」での会員登録とチケット購入自体は事前に評判を聞いて想像していたより簡単に思えたのだが、パビリオン入場やイベント参加の予約をしようと思うとシステムがわかりにくく、必要な手順も煩雑だった。私の場合、入場日が近かったのもあって、予約できるパビリオンはすでになかったが、「EXPOホール」という場所で行われる「Physical Twin Symphony」というイベントを予約することができた。
そして開幕日の翌日、4月14日に再び万博会場へと足を運ぶことにした。JR弁天町駅から大阪メトロ中央線に乗り換えて夢洲駅を目指す。前日の開幕日には一般入場者が11万9千人ほど、それに加え、スタッフや関係者が2万2千人ほど参加したという。日曜日にあたっていた開幕日とは打って変わって、平日の月曜日である14日は、入場者数がだいぶ少ないようだった。JR弁天町駅で警備をされていた方に聞くと、昨日の午前中は大阪メトロへの乗り換えにも行列ができていたという。

この日は地下鉄への乗り換えもスムーズで、並んで待つようなこともなく夢洲駅へ到着。いつも大阪市内を移動する時とあまり変わらない気軽さで会場前まで来ることができた。前回ここに来た時は、改札を出てぼーっと過ごしただけで引き返したが、今日は会場内へ入ることができる。

夢洲駅に隣接する万博会場の東ゲート前では、手荷物検査が行われている。空港の保安検査場のように、トレイに荷物やポケットの中身をすべて出し、X線検査が行われる。昨日はこの手荷物検査と入場手続きだけで1時間以上かかったという報道も目にしていたが、こちらも意外なほどにスムーズだった。
缶、瓶入り飲料の持ち込みは不可であるとか、入場用のQRコードをその場でオンラインで表示させようとすると読み込みに時間がかかるため事前にプリントアウトしておく方がいいとか、そういうことを昨日の入場者のSNS投稿で知っておけたこともよかった。
ちなみに当日、会場内でたくさんの写真を撮ったのだが、大阪・関西万博の公式サイトに2025年4月10日にアップされた「お知らせ」によると、「会場内で撮影した写真や動画を営業目的でインターネット上に掲載すること」は禁止事項に当たるとのこと。それに従い、ここから先は画像を掲載せずに会場内の様子をお伝えしていきたいと思う。
プロフィール

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。