見せる側も、見る側も、結局は「経済力」次第
帰路、乗り換え駅の弁天町駅で降り、近くの居酒屋で安くて美味しいつまみを食べながら今日一日のことを反芻する。スマホの歩数計を見ると3万歩近い数字が表示されている。会場をあっちからこっちへと絶え間なく歩き続けたが、それほどのトラブルもなく、おおむね楽しく過ごすことができた。というか、あれだけの予算をかけて大きな建物を並べたのだから、それは見応えがあって当然だろうとも思う(そうでないと困る)。私が気になるのは、結局、迫力のあるパビリオンを建設して展示内容を豪華にできるのは、そこに予算を費やせる大国で、そういうパビリオンは人を集め、そうでない国は集合展示になって、結局は各国の経済状況が露骨に表れてしまう万博という仕組みそのものの限界についてだった。
それは入場者として参加する側も同じで、あまり経済的に余裕がある層ではない私がまさにそうだが、出費を気にせず存分に楽しめる人ばかりではない気がする。私は大阪に住んでいるから宿泊費もかからず、交通費も大したことはないが、たとえば遠方から家族でこのために来て、高騰するホテル代を払い、館内での飲食や買い物を堪能して、となると相当な出費だろうと思う。それに見合う満足感を得られればいいが、混み合えば混み合うほど一日に体験できるパビリオンはかなり限定されてしまう。
また、人を一か所に集めれば、自然災害や事故など、不測の事態への対応が遅れるリスクを高めてしまうという点にも不安を覚える。そこに対する備えが本当に充分なのか、これまでの万博の進められ方の危なっかしさを見るに、どうしても不安が拭えないのだ。
この原稿を書いている4月22日、急な雨が降り、大阪メトロ中央線は車両故障で21時半頃から1時間ほど全線運転見合わせとなった。混雑する時間、駅構内に乗客が滞留した様子がニュースでも報じられていた。幸い、大きなトラブルはなかったようだが、こういうことは会期中、幾度となく起きてくるだろう。今年の夏も猛暑になるとのことだし、ここ数年で急増しているゲリラ豪雨やそれに伴う落雷、いつ起こるともわからない南海トラフ地震やテロなど、リスクは数々想定される。万博会場は広く、また多くの人で混雑もしているから、すぐに避難しよう、移動しようと思ってもそれが難しい場合が多々あるだろう。今はとにかく無事に約半年後の閉会までたどり着いて欲しいというのが正直な思いだ。
我が家には中学一年生の子どもがいるのだが、学年全体での大阪・関西万博への遠足が決定したと聞いた(本人いわく、それ自体は楽しみだが、そのかわり、毎年恒例の合宿行事が行われなくなってしまうそうで、それが悔しいとのことだった)。安全性にも不安があるし、入場できるパビリオンには限りがある(しかも日本企業のパビリオンらしかった)と聞き、それが何らかの学びにつながるのだろうかと、疑問を感じる。
万博の意義について、吉村府知事は「子どもたちの未来にとって意味がある」とか「未来に残るレガシーがある」といった、検証の難しいポイントを盾にしたような言い方を繰り返してきたが、このタイミングでこの場所で万博を開催する意味が本当にあったのか、もしそれがあったとしても、もっといい形があり得たのではないか、という点についてはこれからも冷静に評価されていって欲しいと願う。お祭り騒ぎの中で色々なことがうやむやにされていきそうな気がしてならないのだ。
そして最後にもう一点書いておきたいのだが、SNS上で万博参加者の感想を追いかけていると、今回の万博に合わせて設けられた電子マネー系のシステムの複雑さについての苦言がたまに見受けられる。
「ミャクペ!」という電子マネー、「ミャクポ!」という独自のポイント制度、「ミャクーン!」というデジタルウォレットNFTがあって、まずそれぞれのシステムを理解するだけでも難しい。そして「ミャクミャクリワードプログラム」といって、「ミャクぺ!」や「ミャクポ!」を利用するごとにステータスが上がるような仕組みがあり、それを最上位クラスまで高めると、たとえば「ミート・ザ・ミャクミャク」というプログラムに参加でき、万博会場でミャクミャクの着ぐるみと5分ほど一緒に過ごすことができるのだという(他にも色々な特典が用意されている)。
そういった特典を得るために(私からすると)かなり高額な料金をチャージしてステータスを高めようと頑張っている方がいるようなのだが、「ミャクペ!」が万博会場内のどこででも使えるわけではなかったりして、うまく連携が取れていないようなのだ。それらを利用している人はきっとかなり熱心な層の万博ファンだと思うのだが、そういう人まで困らせてどうするんだ!と言いたい。
(了)
プロフィール

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。